軍陣に用いる扇であるが、古くは通常の扇を携帯したものであろう。『愚管抄』の平治(へいじ)の乱(1159)のおりの源義朝(よしとも)の日輪を描いた扇の記事がその最古の例である。『平治物語絵巻』や『蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)』などには、親骨以下すべて太く彫骨(えりぼね)(彫り透かした骨)、黒塗りで表に日輪を描いた大ぶりで武骨な扇を武者が使うようすがみえる。室町時代の故実書『随兵日記』には、長さ1尺2寸(約36センチメートル)、表に日輪、裏に月と七星を描くとし、随兵の携帯する扇とするので、中世には軍陣専用の扇のあったことが知られる。しかし軍扇という語は近世の出現である。近世の軍扇の様式も室町時代と同じ規格で、軍用記などにみえ、絵は表が日輪、裏は九曜とする。
[齋藤愼一]
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