日本大百科全書(ニッポニカ) 「近頃河原の達引」の意味・わかりやすい解説
近頃河原の達引
ちかごろかわらのたてひき
浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。世話物。三巻。作者不詳。1782年(天明2)春、江戸・外記座(げきざ)初演。元禄(げんろく)期(1688~1704)に京で起きたお俊伝兵衛(おしゅんでんべえ)の心中に、四条河原の刃傷(にんじょう)事件、親孝行の猿回しが表彰された話などを取り混ぜて脚色。85年5月、為川宗輔(そうすけ)・筒井半二・奈河七五三助(ながわしめすけ)の合作で歌舞伎(かぶき)化されたが、その後、人形浄瑠璃でも歌舞伎でも中の巻「堀川猿回しの段」だけが人気演目になり今日に至った。祇園(ぎおん)の遊女丹波(たんば)屋お俊は、恋仲の井筒屋伝兵衛が四条河原で恋敵(こいがたき)の侍を斬(き)って御尋ね者になったので、堀川のほとりの実家へ帰される。兄の猿回し与次郎は盲目の母親とともに妹を案じ、忍んできた伝兵衛に縁を切らせようとするが、恋人を思うお俊の実意を知り、猿回しの曲をはなむけに2人を落としてやる。登場人物全員の善意が細やかに描かれた名作で、通称「堀川」。真情こもったお俊の「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛さん云々」のクドキと、猿回しのくだりの巧みな節付けが有名。
[松井俊諭]