逆所得税(読み)ぎゃくしょとくぜい(その他表記)negative income tax

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「逆所得税」の意味・わかりやすい解説

逆所得税
ぎゃくしょとくぜい
negative income tax

一定水準以下の低所得者に対する最低限の所得保障。一定所得水準と稼得所得の差額の一定割合を現金給付する制度で,政府が支払う税という意味で負の所得税ともいう。現代の所得再配分政策の基幹をなす制度は,累進的な所得税制度とベバリッジ型の社会保障制度であるが,これら両制度の機能上の短所を解消するために,所得保障を目的とする現金の給付体系と所得課税の体系を統合し,一体的に運用することを目的とする。1960年代にアメリカ合衆国のミルトン・フリードマン,ジェームズ・トービンらによって提唱され,1972年10月にイギリス保守党政府が「タックス・クレジット制度」という具体的なプランを発表して注目された。広義に解釈すれば,1975年頃からドイツ連邦共和国(西ドイツ),イギリスが所得税法を改正し,従来の児童扶養家族控除を廃止して,代わりに第1子以降の全児童に一定額の児童手当を支給する制度を施行することにしたのも一種の逆所得税の制度化とみることができる。貧困の原因別(疾病,老年,失業など)に対策を講じると行政コストが高くつき,公的扶助制度(→生活保護)では稼得所得の増加に伴って扶助額が減額されるため受給者の自力更生意欲を阻害するという欠点があるが,逆所得税は所得水準だけを給付の基準とし,かつ稼得所得が増加してもその増分の一定割合だけが減額されるため,社会保障制度の欠点を解消できると主張される。また所得税の場合はいかなる減税手段を講じても,低所得のために課税対象外である人々にはその恩恵は及ばないが,逆所得税の場合は公的扶助の対象外であって,所得税の課税対象にもならない低所得層にも適切な配慮ができるという利点が考えられている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の逆所得税の言及

【負の所得税】より

…逆所得税ともいう。所得税制度を通じて最低所得をすべての国民に保障しようという構想であり,M.フリードマンの1962年における提案が有名である。…

※「逆所得税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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