トービン(読み)とーびん(英語表記)James Tobin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トービン」の意味・わかりやすい解説

トービン
とーびん
James Tobin
(1918―2002)

アメリカの経済学者。アメリカの代表的なケインズ学派として、貨幣を重視するM・フリードマンなどのマネタリストと華々しい論争を繰り広げた。イリノイ州シャンペーンに生まれる。ハーバード大学で経済学を学び1939年に卒業、さらに同大学院修士課程を1940年に修了した。第二次世界大戦中は海軍に在籍し、駆逐艦カーニー号の副艦長を務めた。1946年ハーバード大学に戻り、1947年博士号を取得した。ハーバード大学で教えたのち1950年にエール大学の準教授となり、1955年教授に昇格、コールズ財団経済研究所の所長も務めた。1955年にジョン・ベーツ・クラーク賞を受賞し、1961年にケネディ大統領の経済諮問委員会委員となり、1971年にはアメリカ経済学会会長に就任した。

 トービンの研究は経済全般に及ぶが、なかでも経済における貨幣の役割に関心を寄せた。とくに有名なものは、資産選択(安全な預金か、債券、株式の危険資産か)の行動を分析した資産選択の理論(ポートフォリオ理論)の研究であり、さらにこの理論をマクロモデルに組み入れ、ミクロとマクロの統合を企てるとともに、貯蓄フローを資産ストックに結び付けた。経済成長理論においても貨幣的要因を導入し、新古典学派の新しい経済成長モデルを提唱、均衡的な経済成長は貨幣需要に大きく影響されるとした。

 投資理論において「トービンのq」とよばれる概念を提出し、金融市場攪乱(かくらん)が実物市場に与えるメカニズムを解明したことでも知られている。1981年に「金融市場、ならびに金融市場と支出決定・雇用生産との関係の分析」の業績によって、ノーベル経済学賞を受賞した。

[金子邦彦 2019年2月18日]

『ジェームズ・トービン著、間野英雄他訳『国民のための経済政策』(1967・東洋経済新報社)』『ジェームズ・トービン著、矢島鈞次他訳『インフレと失業の選択――ニュー・エコノミストの反証と提言』(1976・ダイヤモンド社)』『ジェームズ・トービン著、浜田宏一他訳『マクロ経済学の再検討――国債累積と合理的期待』(1981・日本経済新聞社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トービン」の意味・わかりやすい解説

トービン
Tobin, James

[生]1918.3.5. イリノイ,シャンペーン
[没]2002.3.11. コネティカット,ニューヘーブン
アメリカの経済学者。 1939年ハーバード大学卒業,55年以降エール大学経済学教授。この間,61~62年ケネディ大統領経済諮問評議会委員,71年経済学会会長などをつとめた。貨幣,金融の理論的権威。流動性選好説を定式化した論文"Liquidity Preference as Behavior towards Risk" (1958) で広く知られるようになる。ケインズ派の代表として M.フリードマンと論争し,ケインジアンとマネタリズムとの比較をした"Friendman's Theoretical Framework" (71) も有名。貨幣が重要な役割を果す経済成長論を構築した"Money and Economic Growth" (65) ,一般均衡モデルの手法で貨幣の問題を扱った"A General Equilibrium Approach to Monetary Theory" (69) も貨幣的経済学の進歩に貢献した。投資理論における「トービンのq理論」はいまなお数多くの論争を引起している。著書に『国民のための経済政策』 National Economic Policy (66) ,『経済学=マクロ経済学論集』 (72) ,『消費と計量経済学』 (前論集の第2巻,75) などがある。 81年度ノーベル経済学賞受賞。

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