改訂新版 世界大百科事典 「所得保障」の意味・わかりやすい解説
所得保障 (しょとくほしょう)
income security
社会保障のうち現金給付を扱うものをさす。ベバリッジ報告は,社会保障の目的を〈欠乏からの自由〉にあるとしたため,所得保障は実質的に社会保障の同義語に近かった。アメリカのように社会保障を狭義には所得保障の意味に使う場合も多い。しかし多くの国で所得保障は医療保障とともに実質的に社会保障の二大部門を形成してきた。日本でもそうである。所得保障は病気,出産,失業などの所得の中断とか,障害,老齢(退職),世帯主の死亡のような所得能力の減退または喪失に対し,また子女扶養のような収入補給の必要のために,現金給付を行うものである。そのため社会保険という仕組みが使われてきた。先進諸国では今では貧困者に対し資力調査(ミーンズ・テスト)を条件に給付が支給される社会扶助(公的扶助ともいう)は相対的に低下し,代わって所得調査(インカム・テスト)を条件にするか,または無条件に給付を行う公的サービスがふえてきた。家族手当と無拠出年金はそのおもなものである。一時話題を呼んだ負の所得税もこれに属する。出産率の低下による子女数の減少と老齢化の進展とによって,所得保障は1970年代以後には家族手当が低下し,老齢年金が大きな部分を占めるようになった。社会保障における所得保障重視の傾向に対し,ILOの〈21世紀に向けて--社会保障の発展〉と題する報告(1984。ラロック委員会)は社会福祉の重視を指摘した。社会保障制度審議会が1962年の総合答申ですでにこの点を勧告したのは先駆的である。
→社会保障
執筆者:高橋 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報