改訂新版 世界大百科事典 「道成寺縁起」の意味・わかりやすい解説
道成寺縁起 (どうじょうじえんぎ)
和歌山県を流れる日高川の大蛇伝説を描いた室町時代の絵巻。和歌山県道成寺本2巻のほか,ほぼ同内容の諸本が民間に流布している。醍醐天皇の時,奥州から熊野詣に来た若僧が紀伊国室(牟婁(むろ))郡真砂の清次庄司の家に宿り,その嫁に懸想(けそう)されるが参詣後にと言い逃れ,帰途は女の家に寄らずに過ぎる。嫉妬に狂う女は追いかけ,しだいに炎を吐く蛇体となって日高川を押し渡り,僧が逃げ隠れた道成寺の鐘に巻きついて焼き殺してしまう。その後,道成寺の僧が法華経を書写供養し,両人は天人となって成仏する,という内容である。一般に,安珍・清姫の話として知られているが,道成寺本には主人公の名はない。同様の話は,古く《本朝法華験記》や《今昔物語集》に見えており,また後の道成寺物と称される浄瑠璃,歌舞伎等に引きつがれた。絵巻としては,画面が長く連続し,画中に人物の言葉が書き入れられているのが特色で,多分に御伽草子的な表現である。道成寺本の巻末奥書には天正元年(1573)将軍足利義昭が披見した旨が記されている。現在,道成寺では絵巻を繰り広げてみせながら参詣者に語り聞かせる〈絵解き〉を行っている。
→安珍・清姫
執筆者:岡見 弘+田口 栄一
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