化学辞典 第2版 「遷移金属水素化物」の解説
遷移金属水素化物
センイキンゾクスイソカブツ
transition metal hydride
一般に,遷移金属水素化物は,TiH,CuHのような単純金属水素化物と,[MnH(CO)4],[CoH(CO)4]のようなヒドリド錯体に大別される.単純金属水素化物のうち,金属状水素化物は高温で金属と水素ガスの反応により合成される.遷移金属の結晶格子の間にHが入り込んだ構造をしており,侵入型化合物ともよばれる.このほかの単純金属水素化物としてCoH2,ZnH2,CuH,CdH2などがある.これらは遷移金属塩とLi[AlH4],Na[BH4]のような典型元素の金属水素化物の反応により生成する.一方,ヒドリド錯体は共有結合性の遷移金属-水素結合を有する.ヒドリド錯体はCO,第三級ホスフィン,シクロペンタジエニル基などの配位子が存在すると安定な錯体として単離される.ヒドリドという名称は,元来,水素の陰イオン H- 配位子に対して与えられたものであるが,遷移金属に結合するほかの配位子の種類によっては,金属-水素結合のHは正に分極していると考えられる錯体もある.たとえば,HCo(CO)4は強酸性の無色の揮発性液体である.ヒドリド錯体は多数合成されており,大部分は反磁性で18電子則を満足している.これら遷移金属のヒドリド錯体は,遷移金属塩を適当な配位子の存在下でNa[BH4],Li[AlH4],有機アルミニウム化合物,グリニャール試薬などの還元剤と反応させることにより合成される.ヒドリド錯体はオレフィンの水素化,ヒドロホルミル化,異性化,重合などの触媒となるものが多い.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報