希ガス元素を除いて長周期型の第2、第3周期でLi―F、Na―Clまでの各元素をいう。俗に遷移元素以外の元素を典型元素とよぶこともある。古くロシアのメンデレーエフが周期表第2周期の元素のリチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素の7元素を、各族の代表的元素という意味でこのようによんだ。すなわち、周期表(短周期型)中のこれに続く各元素を第Ⅰ族から第Ⅶ族まで分類したわけである。しかし、これらのいずれの族にも属さない第Ⅷ族元素は、第Ⅶ族から次に回って第Ⅰ族を結ぶ過渡的な元素という意味で、遷移元素とよばれて区別された。その後、遷移元素の意味が拡張されて、第Ⅷ族のみではなく、周期表第ⅢA族~第ⅦA族に属する元素すべてをさすようになると、これに対応してそれ以外の元素をすべて典型元素とよぶようになった。さらに各元素の性格が明らかにされるとともに典型の意味が変わり、上記のように定義されることとなった。
[中原勝儼]
『日本化学会編『実験化学講座24/有機合成6 ヘテロ元素・典型元素化合物』第4版(1992・丸善)』▽『Ian S. Butler, John F. Harrod著、荻野博・下井守・飛田博実訳、荻野博監訳『無機化学』上巻(1992・丸善)』▽『伊藤卓著『有機金属化学ノーツ』(1999・裳華房)』▽『内田希・小松高行・幸塚広光・斎藤秀俊・伊熊泰郎・紅野安彦著『無機化学』(2000・朝倉書店)』▽『小倉興太郎著、塩川二朗・松田治和・松田好晴・谷口宏監修『無機化学概論』第2版(2002・丸善)』▽『Gary L. Miessler, Donald A. Tarr著、脇原将孝監訳『ミースラー・タール無機化学1 化学結合と反応』(2003・丸善)』▽『W. Henderson著、三吉克彦訳『典型元素の化学』(2003・化学同人)』▽『荻野博編著、岡崎廉治・茅幸二・桜井英樹・志田忠正・野依良治編『岩波講座 現代化学への入門11 典型元素の化合物』(2004・岩波書店)』
周期表上の諸元素のうち,遷移元素およびⅡb族元素(亜鉛Zn,カドミウムCd,水銀Hg)を除いた元素,すなわち長周期型周期表の左端のⅠA・ⅡA族元素(最外部にs電子をもつs-ブロック元素)と,右端のⅢBからⅦBまでの族の元素および0族元素(最外部にp電子をもつp-ブロック元素)の総称。元素の周期表の諸原則,すなわち,(1)同族元素は性質が互いによく似ている,(2)元素は表の左側・下側にいくほど強い金属性(陽性)を示し,右側・上側にいくほど強い非金属性(陰性)を示す,(3)元素の示す最大の正の酸化数Nはその族番号に等しく,また最小の負の酸化数は-(8-N)に等しくなる(アベックAbeggの規則)などがよくあてはまり,各元素の性質をその周期表上の位置と関連づけて系統的によく理解できるのでこの名がある。アルカリ金属(ⅠA族),アルカリ土類金属(ⅡA族),土類金属(ⅢB族),カルコゲン(ⅥB族),ハロゲン(ⅦB族),希ガス(0族)などの重要な元素群はすべて典型元素である。
執筆者:曽根 興三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歴史的には,周期表2周期のLiからFに至る7元素をいうが(D.I. Mendeleev(メンデレーエフ)),今日では,内殻が希ガス型電子配置で,最外殻電子配置がns1からns2np5で示される周期表1,2,13~18族元素をいう.ただし,英語のtypical elementsは1,2,13~17族の最初の2元素をさす.遷移元素に対して用いる.遷移元素はすべて金属であるが,典型元素は短周期型周期表で左下に金属製の強いもの,右上に非金属性の強いものがある.典型元素の原子価は,希ガス型電子配置ns2np6との差から考えることができる.典型元素の一般的性質は,同一周期で右にいくほどイオン化エネルギーは増大,原子半径は減少し,同一族で下にいくほどイオン化エネルギーは減少,原子半径は増大するというように規則的に変化する.遷移元素ではこのような規則性は明らかではなく,逆の傾向を示すこともある.典型元素の金属は,一般に軟らかく融点も低い.これらの性質は典型元素の電子配置が最外殻以外では完成していることに起因する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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