改訂新版 世界大百科事典 「部品工業」の意味・わかりやすい解説
部品工業 (ぶひんこうぎょう)
主として機械に使われる部品を生産する工業を指し,部品を組み立て完成品を生産する組立産業(アセンブリー産業)に対比して使われる。完成品に使われる部品点数のレベルは,ミシン,ラジオ,カメラが102,テレビが103,自動車が104,航空機が105,コンピューター,ミサイルが106といわれ,機械工業は数多くの部品を生産する部品メーカーと部品を購入して完成品を組み立てる組立てメーカー(アセンブリー・メーカー)によって構成される。一般に,部品工業はアセンブリー・メーカーに比較して企業規模が小さい多くの中小メーカーから成り立っている(小型の簡単な部品であれば小規模の設備と労働者で生産できるため)。また,アセンブリー・メーカーが部品メーカーに部品の生産を委託している場合,部品メーカーは下請企業と呼ばれ,日本では自動車,電気機械,工作機械等の産業で広範にみられる。下請の場合,アセンブリー・メーカーから資金,技術等の面で支援を受けることがあるが,他方,品質向上・コスト削減等の要求も出される。部品工業のなかには特定のアセンブリー・メーカーの下請に入らず,自社で設計・製作した部品を自主的に販売する専門メーカーもある。
部品工業は機械工業のすそ野に位置するもので,機械工業の発展には部品工業の成長が不可欠である。ただし,アセンブリー・メーカーが自社で部品を生産する例もあり,この場合,使用部品に占める自社製品の割合を内製化率という。また発展途上国では,自国の部品工業育成のためアセンブリー・メーカーに自国の部品の使用を義務づけるところが多い(自国部品の使用比率を国産化率という)。
部品工業の中心ともいえる自動車部品工業についてみると,自動車部品メーカーの数は全国で8000社と推定され,大半は小規模・零細な中小企業である。しかし生産は少数の大手メーカーに集中している。そして自動車部品業界全体では自動車産業の付加価値産出の半分を占める。大部分の自動車部品メーカーはアセンブリー・メーカーである特定の自動車メーカーと下請関係にあり,資本,技術,経営等の面で強い系列関係にある(系列メーカーという)が,優れた技術を有して複数の自動車メーカーと対等の取引をするメーカー(独立メーカー)も少なくない。
執筆者:下田 雅昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報