下請の概念は必ずしも一義的ではないが,通常は価格形成力の対等でない外注を下請という。すなわち,発注企業の価格形成力が強く,受注企業が不利をこうむる外注関係が下請関係である。一般に部品または半製品の加工や生産をより規模の小さい企業に外注する場合,発注企業の需要独占の程度が強く,かつ,受注企業の間の競争が激しい市場構造において,下請関係が成立しやすい。逆に,発注企業の需要独占が存在せず,かつ,受注企業の競争が激しくない場合には,価格形成は受注企業に有利になり,下請関係は成立しない。
下請企業は,製造業のみならず建設業やサービス業にも存在している。製造業においては,一般機械,電気機械,輸送用機械,精密機械などの組立産業と繊維産業において下請企業が多い。また,建設業は総じて下請企業によって支えられているといっても過言ではない。さらに,サービス業の一部,たとえばデータ処理業,ビル・メンテナンス業などにおいても下請企業が見受けられる。
さて,下請企業の存在形態は,今日ではきわめて多様である。とくに,産業や企業規模によって大きく異なっている。特定の1社から受注している専属下請もあれば,同じ産業の多数の企業から受注する企業もある。さらに,複数の産業の企業から受注している企業もある。また,大企業から直接に受注している1次下請もあれば,2次下請(孫請),3次下請もある。
加工形態別にみても,完成品や完成部品を生産している下請企業,単純な部品を生産している下請企業,部分的な加工を行っている下請企業などがある。原材料の調達からみても,自給,有償支給,有償材料の賃加工などの形態がみられる。外注企業の数が多いことは日本の産業界の特徴であるが,細かく専門化し,社会的分業のメリットを最大限に生かしているといえよう。下請企業の数もかつてはかなり多かった。
産業の高度化と賃金の上昇とともに,下請関係は大きく変化した。低賃金経済の時代においては,下請利用の理由として,(1)低賃金の迂回的利用,(2)景気変動のバッファー,(3)発注企業の資本節約,などが指摘されていた。
しかし,たとえば組立産業の場合には,賃金が上昇し,加工技術が進歩するとともに,部品の精度が重視され,かつ,国際競争のもとでは,品質,コスト,納期が下請企業の存立を左右するようになっている。数値制御の機械や産業ロボットが導入されているし,素材の転換も著しい。下請企業といえども専門技術をもたざるをえなくなっている。他方,適応力を欠いた下請企業は脱落を余儀なくされている。こうして,総じて,下請企業の脱専属化が進み,次いで脱下請化も進展している。独立加工専門企業,独立部品専門メーカーが数多く登場している。こうした企業群が日本産業の国際競争力を支えている。
執筆者:清成 忠男
法的には請負人がみずから引き受けた仕事の完成を,さらに第三者に請け負わせることを下請という。下請労働者の労働条件が一般に悪いことから,労働法上保護規定が設けられている。たとえば,建設業や造船業など特定事業の元請人に,下請労働者の安全衛生について一定の責任を負わせている(労働安全衛生法15,30条)。また不幸にして労働災害が発生した場合,建設業や土木業などでは,元請人は災害補償については下請労働者の使用者としてみなされ,その責任を負わされている(労働基準法87条)。さらに判例・学説では,特定の事業にかかわりなく広く,元請人と下請労働者間に使用従属関係がある場合には,元請人に災害補償の責任を負わせている。つまり,元請人を下請労働者の使用者とみていることになる。この考えは,災害補償だけでなく,不当労働行為制度上の使用者の範囲を確定する場合にも用いられ,元請人と下請労働者間に雇用関係に準ずるような使用従属関係があれば,元請人が労働組合法上の使用者と認められている。
→請負
執筆者:香川 孝三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
経済的、技術的に劣位にある中小企業が、特定の大企業に従属しながら、その支配・統制の下で大企業の注文を受けて生産を行う体制。下請(制)は、大企業と中小企業間の関係であるが、市場メカニズムにたつ単発的な外注関係ではなく、支配と従属の関係を持続的に内包している点に決定的な特徴がある。欧米にも外形の類似したサブコントラクト・システムsubcontract systemとよばれる一種の下請制はあるが、その範囲は日本の場合ほど広範かつ縦深‐階層的でなく、支配・従属の関係というよりは専門工場の利用という色彩がはるかに強い。日本では、中小企業の数が圧倒的に多いという事情もあって、広範囲に下請制が普及している。大企業(親企業)にとっては、低賃金による低コスト生産、景気変動のクッション、資本設備の固定化回避ないし資本節約という利点があり、下請企業にとっては、資金・技術の援助が受けられることや販売問題の解消などの利点があるためである。
[森本三男]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…しかし,現実にはその境界はきわめて微妙であり,請負の形をとった労務供給による中間搾取が発生する危険がつねにある。また大企業がその業務,工程の一部を主として中小企業に外注,委託する,日本に広範に存在する下請制も請負の重要な一形態である。近年,企業が行う業務内容が複雑,多様になってきており,またサービス経済化の進展に伴って,そうした業務を専門に引き受ける企業が発生,拡大しているため,建物・施設の維持・管理,コンピューターの管理,運転,事務処理など多様な分野で外部委託を行う企業が増えており,請負の新たな形態として注目されている。…
… 建設業は多くの工事部門から構成される総合組立産業であるため,ある程度以上の規模の工事では,注文主側が有力業者に発注を限定する傾向がある。こうした事情もあって,建設業では性格を異にする業者が幾重にも重なり合って重層的元請・下請関係を形成している。欧米各国が専門職種別の近代的下請制度になっているのに比べて,前近代的関係を強く残すこの下請機構の近代化は今後の課題である。…
※「下請」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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