日本大百科全書(ニッポニカ) 「金融リテラシー」の意味・わかりやすい解説
金融リテラシー
きんゆうりてらしー
financial literacy
金融に関する知識や情報を理解し、主体的に判断できる能力のこと。金融に「literacy(読み書きの能力)」を組み合わせた造語で、金融が複雑・多様化し始めた1990年代から使われるようになった。知識・知見として、(1)預金、ローン、保険、株式、債券、外貨などの金融商品、(2)景気やインフレなどの経済、(3)税制や社会保障制度、(4)分散投資やハイリスク・ハイリターンなどの資産管理、(5)キャッシュレス決済や暗号資産などのIT技術、(6)結婚、住宅取得、老後などのライフプラン設計、(7)特殊詐欺などのリスクへの備え、(8)紛争、金融危機などの時事ニュース、を幅広く収集・習得したうえで、自己責任で生活スキルとして使いこなす能力を意味する。生活者が自立的に安心かつ豊かな暮らしを実現するために必要なスキルであり、金融リテラシーの向上は健全で質の高い金融商品の提供につながるほか、家計資産の成長分野への有効活用や持続可能な社会の実現にも役だちうるとされている。なお、類似語に、金融コンピテンシーcompetency(能力・行動特性)がある。
金融広報中央委員会(事務局・日本銀行)の2022年(令和4)調査では、インフレや分散投資に関する問題で日本人の正答率は経済協力開発機構(OECD)調査の上位10か国平均を下回った。日本人の金融リテラシーの低さに加え、長寿化による老後資金の増大、ローンなどを契約できる成人年齢の引き下げ、金融トラブルの増大などを勘案し、政府は2022年度から高校で金融経済教育を義務化した。金融リテラシーの向上に向け、金融庁は小学生の小遣いから老後の年金まで、ライフステージにあわせて示した「金融リテラシー・マップ」をまとめ、銀行、証券・保険会社が相次いで金融教育ツールの開発や講師派遣に乗り出すなど、金融教育への取り組みが官民で広がっている。
[矢野 武 2022年10月20日]