金鰲新話(読み)きんごうしんわ

改訂新版 世界大百科事典 「金鰲新話」の意味・わかりやすい解説

金鰲新話 (きんごうしんわ)

朝鮮,李朝前期の漢文伝奇小説集。作者は金時習。執筆年代は慶州の金鰲山に居を構えた31歳から36歳(1466-71)の間という説が有力。完本は失われ,〈万福寺樗蒲記〉〈李生窺牆伝〉〈酔遊浮碧亭記〉〈南炎浮洲志〉〈竜宮赴宴録〉の5編が伝わる。〈李生窺牆伝〉は,開城に住む李生という学生が崔娘と佳縁を結び,不幸にも崔娘は紅巾の乱に死亡するが,幽霊となって李生と再会し夫婦生活を営むという話。他も同様に伝奇的要素が多い。高麗時代の伝奇と,直接的には明代瞿佑(くゆう)の《剪灯新話》から題材・構成の影響をうける。日本に伝わり1653年(承応2)和刻本が刊行され,江戸時代の怪談小説の流行に一役買っている。浅井了意の《御伽婢子(おとぎぼうこ)》の〈歌を媒として契る〉は〈李生窺牆伝〉の翻案と見られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「金鰲新話」の意味・わかりやすい解説

金鰲新話
きんごうしんわ / クムオシンファ

朝鮮最初の小説集。漢文で書かれた伝奇体小説で、作者は金時習(きんじしゅう/キムシスプ)。『万福寺樗蒲記(ちょほき)』『李生窺墻伝(りせいきしょうでん)』『酔遊浮碧亭(ふへきてい)記』『南炎部洲志』『竜宮赴宴録(ふえんろく)』の5編が収められている。文献によれば続編があるそうであるが、伝わっていない。これらの小説でもっとも特徴的なのは、男女間の恋愛を大胆に描いたことで、人間性を無視した儒教呪縛(じゅばく)から解放されなければならぬという作者の思想が投影されている。また、描写が写実的になり、フィクションが導入されていることで、それまでの説話体形式の物語本とは一線を画した。「朝鮮の小説形式の濫觴(らんしょう)をなす」といわれるゆえんである。

[尹 學 準]

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世界大百科事典(旧版)内の金鰲新話の言及

【金時習】より

…《梅月堂集》(癸丑字本23巻11冊)が伝わる。《金鰲新話(きんごうしんわ)》は朝鮮の小説の濫觴をなし,彼の名を文学史に不朽にとどめる。【大谷 森繁】。…

※「金鰲新話」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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