銀行行動理論(読み)ぎんこうこうどうりろん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「銀行行動理論」の意味・わかりやすい解説

銀行行動理論
ぎんこうこうどうりろん

銀行がその固有の業務を遂行する際にとる行動を説明する理論総称。銀行は他の企業と同様、利潤追求を行う私企業であるが、財の生産は行わず、資金の貸借に介在し、その仲介機能によって収益をあげることを基本としている。すなわち、銀行の利潤は、預金を受け入れ、それを貸出などの収益資産に運用し、利鞘(りざや)を稼ぐことで得られるので、
  銀行の利潤=貸出収入-預金費用
で示される。貸出収入とは、貸出額と貸出金利との積で示され、預金費用は預金額と預金金利の積と固定費用(経費、税金など)の和として示される。したがって、通常の企業理論の場合と同じように、銀行の利潤極大条件を求めることが可能となる。たとえば、のように収入曲線をP(上に凸なのは、貸出量が多くなると貸倒れの危険が増すため)、費用曲線をCとすれば、Q点で利潤は極大となる。

 これに対して、古典的な信用創造理論も銀行の貸出行動についての理論であり、銀行行動を説明する。単純化すると、支払準備率をr、本源的預金(現金預入れによる預金)をDとすれば貸出Lは、

で示される。これは銀行の貸出可能額を示すものである。

 また、貸し手分析アベイラビリティ理論)、資産選択の理論による銀行行動分析もあり、ほかには銀行の費用構造からその規模の経済性や範囲(多角化)の経済性、効率性などの分析も行われている。資産選択の理論によれば、銀行の資産保有行動について、安全資産(現金、預け金など)と収益資産(貸出、有価証券投資)との組合せ、さらに収益資産の組合せについても、収益率と危険度の観点から種々の保有形態を説明することができる。

 これらの理論に基づいて、日本の銀行行動についても多くの分析が行われている。たとえば鈴木淑夫(よしお)(1931― )はの考え方を用い、都市銀行とその他の銀行について利潤が極大となる点を求めている。また、日本の銀行は単に利潤極大化行動をとるのではなく、預金シェアの維持ないし貸出高極大化行動をとるとする説や、横並び意識を強調する説などもある。

[村本 孜]

『呉文二著『金融政策』(1973・東洋経済新報社)』『山下邦男・石黒直文・村本孜著『銀行論』(1975・青林書院新社)』『池尾和人・金子隆・鹿野嘉昭著『ゼミナール 現代の銀行』(1993・東洋経済新報社)』『鹿野嘉昭著『日本の金融制度』第2版(2006・東洋経済新報社)』『鈴木淑夫著『金融』(日経文庫)』


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