日本大百科全書(ニッポニカ) 「アベイラビリティ理論」の意味・わかりやすい解説
アベイラビリティ理論
あべいらびりてぃりろん
availability theory
availability doctrine
1950年代初めにアメリカで展開された新しい金融政策理論。その主唱者の名をとって、ローザ理論Roosa theoryともいい、また日本では貸手分析ともよんでいる。従来の理論では、金融政策の効果は利子率の変更を通じて作用し、それは資金の借手に対して借入費用の増減をもたらすという信用のコスト効果を重視した。たとえば、資金の借手である企業は、資金調達に際して、借入金利が上昇するときには期待利潤率を勘案したうえで一般的には資金需要を抑制するであろうし、反対に金利引下げのときには資金需要を増加させるであろうと考えたのである。ところが、このような金利の資金需給調整機能に対し、1930年代末に実証研究に基づいて投資の利子非弾力性が明らかにされるとともに、金融政策の有効性が疑問視されるようになってきた。これに対してローザは、第二次世界大戦中に発行された大量の政府証券が民間金融機関に累積している状況では、金融政策の効果は、借手に対してよりも、貸手である金融機関に対して有効であるとして、とくにその信用供与行動(信用のアベイラビリティ、具体的には信用供与の意志と可能力)に対する効果を重視し、金融機関の貸出意欲の変化を通じて総需要、経済活動に大きな影響が出ると考えたのである。たとえば、金利引上げ政策がとられたとすると、金融機関の所有する政府証券の価格が下落し、証券を売却して貸出増加を図ろうとしても売却損(キャピタル・ロス)となるので、結局、売却を手控えざるをえず、したがって貸出も抑制するようになり、いわゆる引締め効果が出ることとなる。これを「封じ込め効果(ロック・イン効果)」といい、アベイラビリティ理論の中心をなすもので、このほかにも流動性効果、期待効果などが作用すると考えられる。
[村本 孜]
『水野正一・山下邦男監訳『現代の金融理論Ⅱ』(1966・勁草書房)』▽『館龍一郎・浜田宏一著『金融』(1972・岩波書店)』▽『岩田一政著『現代金融論』(1992・日本評論社)』