日本大百科全書(ニッポニカ) 「長江実業グループ」の意味・わかりやすい解説
長江実業グループ
ちょうこうじつぎょうぐるーぷ
Cheung Kong Group
香港(ホンコン)のコングロマリット(複合企業体)。長江実業グループは不動産、建材事業を中心に、住宅やショッピング・センターの開発、セメント生産、採石などのほか、港湾作業、流通、ホテル、電力、石油開発プロジェクトなど多様な業域に進出している。1980年代末からは移動電話、衛星通信、衛星放送など新規事業にも参入しており、香港、中国本土、カナダ、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどにも事業を展開した。2011年時点でグループは8社で構成されており、香港証券取引所には長江実業、ハチソン・ワンポア、長江基建、電能實業、長江生命科技集団CK Life Sciences Int'l.,(holdings) Inc.、ハチソン国際テレコミュニケーションズHutchison Telecommunications International Ltd.、ハチソン・ハーバー・リングHutchison Harbour Ring Ltd.、TOM集団TOM Group Ltd.(インターネット、出版、テレビなどの総合メディア企業)が上場されている。これら8社をあわせた株式の2009年12月31日における時価総額は6470億香港ドルに上る。
[上川孝夫]
長江実業
グループの中核をなす長江実業Cheung Kong (Holdings) Ltd.は香港財閥大手の李嘉誠(りかせい/リカシン)Li Ka-shing(1928― )が創業した。李は中国広東省潮州(ちょうしゅう/チャオチョウ)出身で、幼少時に香港へ移り、プラスチック工場のセールスマンとして働きながら、夜間学校で学んだ。1950年、ホンコン・フラワー(造花)を欧米に輸出する事業を開始。1960年代に入り地価暴騰のチャンスを生かし不動産業に進出、ホンコン・フラワーで蓄積した資金を土地・建物の購入に投資した。1972年には香港の株価急騰のなかで長江実業の株式を上場。1979年にハチソン・ワンポアの株式を購入して同社を傘下に収めた。これは、中国系企業がイギリス系企業を支配下においた香港で初めてのケースであった。1985年にはイギリス系電力会社の香港電灯を買収するなど、1970年代から1980年代にかけて有力財閥に成長した。2010年の売上高は328億6300万香港ドル。
[上川孝夫]
ハチソン・ワンポア
ハチソン・ワンポアHutchison Whampoa Ltd.は長江実業グループの中心企業の一つである。業域は港湾事業、不動産・ホテル事業、小売業、エネルギー・インフラ・投資事業、通信事業などに及ぶ。
1828年に広州(こうしゅう/コワンチョウ)に開店したA・S・ワトソン商会(薬局)が1846年に香港に進出。さらに1863年にワンポア・ドック会社を珠江(しゅこう/チューチヤン)沿岸の黄埔(こうほ/ホワンプー)(広州郊外)に建設した。一方、1877年、イギリス人J・D・ハチソンは香港にハチソン有限公司(コンス)を設立した。1960年代にはこのハチソン有限公司を発展させたハチソン・インターナショナルの創設者クラーグDouglas Clague(1917―1981)が、香港ワンポア・ドック(HWD)やA・S・ワトソン商会などの買収を開始。さらに1969年にはコンテナ荷役のため香港インターナショナル・ターミナルズ(HIT)を設立。1977年にはHWDとHITを合併してハチソン・ワンポア有限会社が誕生、1978年に香港株式取引所に上場した。1979年に李嘉誠が香港と上海の銀行の主要株主となってハチソン・ワンポアの株式を購入、同社を長江実業の傘下に収めた。
2009年の売上高は30億0549万香港ドル。
[上川孝夫]
長江基建
英語表記はCheung Kong Infrastructure Holdings(略称CKI)。1996年に設立された社会基盤整備を中心にした総合的事業会社。同年香港証券取引所に上場、ハンセン指数(香港の株式市場の動きをみるために恒生(ハンセン)銀行が発表する指数)の銘柄の一つになっている。1999年末までに香港と中国本土の社会基盤整備事業(建設、エネルギー関連、輸送など)に10億香港ドル(1億3000万USドル)以上を投資した。傘下企業にはセメント、アスファルトの総合生産を行うグリーンアイランド・セメントを擁するCKIマテリアルズ、中国の4省に5965メガワットの電力プラントを建設したCKIエナジー、670キロメートルの有料道路と橋梁(きょうりょう)を中国6省に建設したCKIトランスポーテーションなどがあり、2010年度の総売上げは28億1400万香港ドル。
[上川孝夫]
電能實業
英語表記はPower Assets Holdings Ltd.。2011年に現社名に変更。旧社名は香港電灯Hongkong Electric Holdings Ltd.であり、1889年に創設された電力会社。当時の出力100キロワットの発電所が供給する電力は、1890年に香港セントラル・ストリートに初めて街灯をともした。1985年に李嘉誠率いる長江実業に買収された。1999年時点で石炭燃料発電機8基、ガスタービン発電機7基を備え、出力3505メガワットの発電能力をもっていた。2010年度の総売上げ103億7100万香港ドル。
[上川孝夫]