ハンセン(読み)はんせん(英語表記)Lars Peter Hansen

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハンセン」の意味・わかりやすい解説

ハンセン(Lars Peter Hansen)
はんせん
Lars Peter Hansen
(1952― )

アメリカの経済学者。計量経済学第一人者イリノイ州シャンペーン生まれ。1974年にユタ州立大学で数学と政治学を学んで卒業(数学士、政治学士)した後、1978年にミネソタ大学で経済学博士号(Ph.D.)を取得した。ミネソタ大学在学中に、クリストファー・シムズやトーマス・サージェントの薫陶を受け、市場価格を検証する一般化モーメント法(Generalized Method of Moments:GMM)の着想を得ている。カーネギー・メロン大学、シカゴ大学で教鞭(きょうべん)をとった後、1984年からシカゴ大学教授。専門は計量経済学で、経済学会と政策当局との橋渡しにも努めている。2013年に「資産価格の実証分析の発展に対する貢献」によりノーベル経済学賞を受賞した。シカゴ大学のユージンファーマ、エール大学のロバート・シラーとの共同受賞である。

 ノーベル賞を同時受賞したファーマは1960年代に、サミュエルソンとともに、あらゆる情報が市場を通じて瞬時かつ合理的に株式や債券などの資産価格に反映されるという「効率的市場仮説」を提唱、資産価格はランダムに変動し短期的に価格を予測することはできないと主張した。一方、同時受賞したシラーは、人間はかならずしも合理的には行動せず、資産価格は長期的には一定の傾向にしたがって予測可能と提唱した。しかしファーマやシラーのモデルは、現実の資産データの変動が動的で複雑なため、十分には説明できなかった。ハンセンは資産価格データを動的、時系列的に検証できる一般化モーメント法という新たな手法を開発。資産価格の変動をうまく説明するのに成功した。一般化モーメント法は金融分野だけでなく、社会科学の各分野にも幅広く用いられている。

[矢野 武 2021年5月21日]


ハンセン(Alvin Harvey Hansen)
はんせん
Alvin Harvey Hansen
(1887―1975)

アメリカのケインズ派経済学者。1915年ウィスコンシン大学を卒業、ブラウン大学講師、ミネソタ大学教授を経て、1937年以降ハーバード大学リッタワー行政学院教授。そのかたわら、政府の経済顧問としても業績を残し、さらに1938年にはアメリカ経済学会会長を務めた。当初、景気理論に関心をもっていたが、ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)の影響を受けて、アメリカにおけるケインズ学派の中心的役割を果たした。第二次世界大戦前は、先進資本主義国における不況を長期停滞論として説明づけ、民間部門と公共部門からなるいわゆる二重経済の必要性を強調し、ニューディール政策の理論的基礎を与えた。戦後は、ケインズ政策の有効性が広く受け入れられるようになったことから、教育施設などへの公共投資による福祉国家への道が課題であると考えた。ケインズ理論の普及に努めるとともに、サミュエルソンPaul A.Samuelson(1915―2009)やトービンJames Tobin(1918―2002)など後のノーベル経済学賞受賞者をも育てた。『財政政策景気循環Fiscal Policy and Business Cycles(1941)などの著作がある。

[中村達也]

『都留重人訳『財政政策と景気循環』(1950・日本評論社)』『小原敬士訳『経済政策と完全雇用』(1949・好学社)』『大石泰彦訳『ケインズ経済学入門』(1961・創元社)』『小原敬士・伊東政吉訳『アメリカの経済』(1959・東洋経済新報社)』


ハンセン(Peter Andreas Hansen)
はんせん
Peter Andreas Hansen
(1795―1874)

デンマーク天文学者。月運行表の作成者。少年のころは時計修理工であったが、1821年コペンハーゲンのアルトン天文台で計算助手をつとめ、天体力学を修めた。一般摂動論において独自の解析を行い、それを月や惑星の運動に適用した。1825年新設のゼーベルク天文台長に迎えられ、1857年には彼のために新天文台が建設された。月の運動理論に関する著書も著し、1857年には月運行表を作成した。この表はただちにイギリス航海暦に採用され、以後1923年にE・W・ブラウンの表が公刊されるまで通用した。ハンセンの研究は測地学、光学、確率論など広範囲で、ドイツ、フランスの科学アカデミー、イギリスの王立天文協会より賞を授与されている。

[島村福太郎]


ハンセン(Martin Jens Hansen)
はんせん
Martin A. Hansen
(1909―1955)

デンマークの作家。シェラン島の農家に生まれ農耕に従う。のち進学し教師になるが、小説『いまや彼は断念する』(1935)で、1930年代の農業危機を扱って注目を浴びる。童話風の『ナタンの旅』(1941)、『幸福なクリストファー』(1945)で地歩を確立。短編集『茨(いばら)の藪(やぶ)』『鷓鴣(しゃこ)』のあとは評論活動や文化史研究に没頭し、『煙突の中での思考』(1948)、『レビアタン』で思想的・民俗学的な深化を示し、グルンドビー、キルケゴールに共鳴して、進化論、マルクス主義に対決する立場をとる。50年ラジオ小説『嘘(うそ)つきたち』で成功を収める。最後の大作『蛇(へび)と牡牛(おうし)』(1952)は北欧文化賛歌で、20世紀北欧の代表作の一つに数えられる。『アイスランドへの旅』(1954)など旅行記もある。

[山室 静]


ハンセン(Gerhard Henrik Armauer Hansen)
はんせん
Gerhard Henrik Armauer Hansen
(1841―1912)

ノルウェーの細菌学者。ベルゲン生まれ。クリスティアニア大学で医学を修め、ベルゲンのハンセン病院院長。1871年新鮮な摘出らい結節の細胞内に限って微細な桿(かん)状体の存在をみつけて桿菌と判断、のちに染色法を用いて桿菌を確認し、1874年発表したが、ウサギの感染試験には成功しなかったと報告している。のちの研究者はハンセンの研究を承認し、彼をらい菌発見者とした。ハンセン病は彼の名にちなむ。

[藤野恒三郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハンセン」の意味・わかりやすい解説

ハンセン
Hansen, Lars Peter

[生]1952.10.26. イリノイ,シャンペーン
アメリカ合衆国の経済学者。1974年にユタ州立大学で数学と政治経済学の学士号を,1978年にミネソタ大学で経済学の博士号を取得した。1978~81年カーネギーメロン大学で准教授を務めたのちシカゴ大学に移り,1984年経済学部の教授となる。2010年に同大学デービッド・ロックフェラー特別教授職につく。資産価格決定の理論を実証データに基づき検証する統計的手法を開発した。株式市場の相互関係が,市場の将来の利益を予測するのに使えるかどうかを検証する手法は,株式会社の時価総額や市場価値の一部としての簿価など,それ以外の要因のほうが重要であることを明らかにした。1982年に一般化モーメント法 GMMを開発し,これを使って資産価格データの特性分析を行なった。2013年,「資産価格の実証分析」への貢献により,ユージン・F.ファーマ,ロバート・J.シラーとともにノーベル経済学賞を受賞した。3人の研究と分析の成果は,株式や債券,不動産などの金融資産の価格と,それらの価格を動かす要因を研究する新たな手法を見出すことにつながった。

ハンセン
Hansen, Alvin Harvey

[生]1887.8.23. サウスダコタ,ビボーグ
[没]1975.6.6. バージニア,アレクサンドリア
アメリカの経済学者。 1915年ウィスコンシン大学卒業,18年同大学で博士号を受け,その後ミネソタ,スタンフォードなどの大学を経て 37~56年ハーバード大学リタワー行政学院教授。アメリカ国務省,国際経済省,社会保障諮問会議,カナダ政府などに関係して実際の経済政策にもたずさわり,ニューディール政策に理論的基礎を与えた。主著『財政政策と景気循環』 Fiscal Policy and Business Cycles (1941) ,『貨幣理論と財政政策』 Monetary Theory and Fiscal Policy (47) ,『アメリカの経済』 The American Economy (57) ,『1960年代の経済問題』 Economic Issues of the 1960's (60) など。

ハンセン
Hansen, Armauer Gerhard Henrik

[生]1841.7.29. ベルゲン
[没]1912.2.12. ベルゲン
ノルウェーの細菌学者,医師。らい菌の発見者。彼の名にちなんで,今日らいはハンセン病と呼ばれている。 1868年ベルゲンで医師となり,70~71年にはボンとウィーンに留学,組織学の研究に従事,75年にはベルゲン療養所所長となった。この間,患者の生体組織のなかに微生物を発見,79年これがらい菌であることを確認した。以後患者の隔離と消毒法の実施に終生尽力した。 1901年ベルゲンに記念像が立てられた。

ハンセン
Hansen, Martin (Jens) Alfred

[生]1909.8.20. シュトロビー
[没]1955.6.27. コペンハーゲン
デンマークの小説家。出世作『ヨナタンの旅』 Jonatans Rejse (1941) は怪異な想像力で 20世紀文明を風刺的に描いたもの。『幸福なクリストファー』 Lykkelige Kristoffer (45) ,短編集『さんざしの藪』 Tornebusken (46) ,『嘘つき』Løgneren (50) などを経て,代表作『蛇と牡牛』 Orm og Tyr (52) を発表。

ハンセン
Hansen, Peter Andreas

[生]1795.12.8. トンデルン
[没]1874.3.28. ゴダ
デンマークの天文学者。最初は時計商を志したが,H.シューマッヘルの助手として,アルトナの天文台で観測研究を行い (1821~23) ,のちゴダのゼーベルク天文台台長 (25) 。月の運動理論を発展させ,それに基づいて,地球と太陽の間の距離をより正確に算定。 1853年には太陽の新しい運行表を発表した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報