造花(読み)ゾウカ

デジタル大辞泉 「造花」の意味・読み・例文・類語

ぞう‐か〔ザウクワ〕【造花】

紙・布などを使って、生花せいかに似せてつくった花。つくりばな。
[類語]草花生花生け花切り花盛り花押し花ドライフラワー花束ブーケ花輪レイ徒花あだばな無駄花初花国花県花名花梅花桜花菊花綿花菜の花落花

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精選版 日本国語大辞典 「造花」の意味・読み・例文・類語

ぞう‐かザウクヮ【造花】

  1. 〘 名詞 〙 紙、布、ビニールその他の材料で花をこしらえること。また、その花。つくりばな。
    1. [初出の実例]「様々の造花共瓶に差したり」(出典:今昔物語集(1120頃か)二〇)
    2. 「造花(ザウクヮ)の材料にする繻子(しゅす)の木の葉を」(出典:暗夜行路(1921‐37)〈志賀直哉〉二)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「造花」の意味・わかりやすい解説

造花
ぞうか

自然の花を手本としてつくった人工の花。飾り花。布、紙、糸、皮革、ビニル液、プラスチック、金属などを素材に、植物の花や葉、枝、茎、実などを模造したもの。室内装飾用や祭飾用など一般的な造花と、服飾のためのアクセサリー用造花がある。

[市川久美子]

歴史

紀元前2700年ごろ地中海で栄えたエーゲ海文化の遺品のなかにみられる造花が、現存する最古のものとされている。前1600年ごろの古代エジプトでは装身具に用いられ、そのなかでも優れたものの一つに、アメネムハト2世の娘クヌメトが用いた冠の飾りになっている、金製の5弁の小花がある。これは黄金輝く華麗なものである。古代ギリシアや古代ローマになると、さらに磨きがかけられ、りっぱで巧緻(こうち)なものがつくられた。古代ローマでは、戦争で功績をたてた勇者に、花の冠コローナを頭にかぶせて武勲をたたえ祝福した。その宴席では、紐(ひも)で花形を結んだり、花輪をつくるなどして頭にのせ「宴楽のコローナ」と称してもっぱら造花が豪華な雰囲気づくりをした。ルネサンス時代になると、その技術はさらに進歩して、その繊細な写実主義は本物の花と見まがうほどになり、優雅な色彩、豊富な色調を、貴族の社交界では大いに競い合った。18世紀に入ると、布製の豪華な造花が一般庶民の間でも広く用いられるようになり、技術も著しく進歩した。近世に至り、生花だけでつくられていた花嫁のブーケなどにも、造花が用いられるようになり、コサージュや、婦人・女児の帽子、夜会服などには、かならず造花をつける風潮を生んだ。現代では、新しい感覚のもとに洋服と同色、あるいは造花でなければ表現できない色の造花が好まれているが、一方では花の栽培種類も増え、生花で正式に飾るという、昔ながらの方法も人気をよんでいる。

 日本には、造花の一種として剪綵(せんさい)という手工芸がある。絹布や紙、金箔(きんぱく)で花の形に切り抜き、屏風(びょうぶ)などに貼(は)って飾りとしたもので、古くは正倉院に残されている。本格的な造花の発達は江戸時代になってからで、お細工物(さいくもの)とよばれ、糸の花、布の花など日本独特の美しさをもつものがつくられた。江戸末期には、宮中の御用造花師や民間専門の造花師も現れている。彼らは雛(ひな)飾りの右近(うこん)の橘(たちばな)、左近(さこん)の桜、人形の髪飾り、菅笠(すげがさ)の飾り、節供(せっく)の菖蒲(しょうぶ)など、文字どおり江戸の季節に花を添えた。

 江戸風の造花は婚礼の蓬莱(ほうらい)(祝いの具に松竹梅、鶴亀(つるかめ)などを飾り、中国の想像の山、蓬莱山をかたどったもの)や高砂(松に尉(じょう)と姥(うば)、鶴亀などをかたどって祝賀に用いたもの)などに大いに用いられ、江戸市中には造花屋が次々に生まれた。また「花かんざし」(造花で飾ったかんざし)は江戸の名物にもなった。ただし今日みられるような造花は、明治以降ヨーロッパ風の婦人洋装が流行するようになってからのことである。

[市川久美子]

種類

大別して、本物に似せてつくる写実造花、実際の花にこだわらず造形する創作造花、その中間をいく作者の創意を加えた中性造花に分けられる。写実造花の代表的なものが、第二次世界大戦後に現れたプラスチックを素材とした香港(ホンコン)フラワー。中国広東(カントン)省東部の汕頭(スワトウ)や香港地方がおもな産地であることからその名があり、花の種類も多く、変形変色も少なく、汚れは洗い落とせることもあって、現在でも根強い人気をもつ。

 素材だけで分類してみると、布類でつくる布花、伸縮性のあるリボンでつくるリボン・フラワー、またビニル液でつくる造花もある。ビーズに針金を通してつくるビーズ造花、ニードルポイントレース(縫い針を使って、ボタンホールステッチを基礎として縫い上げたレース)でつくられるレースの花、紙では和紙、生半紙(きばんし)(和紙の手漉(す)き半紙の総称)、クレープ・ペーパーなどによるペーパー・フラワーリンゴの実でつくるリンゴの花、パンをほぐして粘土状にし練り上げてつくるパンの花、皮革を用いた皮造花、と枚挙にいとまがないほどであり、そしてまだまだ新しい素材による造花が生まれそうである。

[市川久美子]

用具

造花製作に必要な一般的な用具は、地巻き針金、各種のこて、針金、手芸工作用ボンドなどビニル系の接着剤、事務用糊(のり)、ペップ(花芯(はなしん))、綿(わた)、リボン、型紙用紙、紙テープ、目打ち、鋏(はさみ)、ピンセット、裁ち包丁、ニッパー(針金切り)、筆、刷毛(はけ)、絵の具などである。染料は主として直接染料を使い、赤、青、黄、紫、赤紫、茶の6種類を用意すれば、これらを調合してほとんどの色を出すことができる。さらに、染料をよく浸透させるためには、浸透液を使えばよい。これは、中性洗剤を水1カップ(200cc)に、1グラムを攪拌(かくはん)したものを、染料の中に1、2滴加えるだけでも十分な効果をもつ。

[市川久美子]

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改訂新版 世界大百科事典 「造花」の意味・わかりやすい解説

造花 (ぞうか)

自然の花,生花に模して作られ,その代用として使われる人工の花のこと。その歴史は明らかではないが,生花の歴史とともに始まったと考えられる。生花の利用は,古代エジプト時代,古代ギリシア時代の遺品の中にも見られる。古代ギリシアでは祝祭日の儀式の中で,花を神々の像の頭に花冠として付け,みずからもかぶるなど当時のギリシア人の生活の一部になっていたが,そのころから,金,銀などを用いて花が作られたと記述されている。布製のものは16世紀にイタリアで作られ,フランスに紹介され,18世紀ころにはパリを中心にヨーロッパ全体にしだいに広まったという。イギリスでは,刺繡のしすぎから婦人の姿勢が悪くなっていることをビクトリア女王が憂慮し,この改善のために貝やリンネルを使って花を作ることを奨励し,でき上がった作品をガラスの器に入れ,永久花として楽しんだので,造花が一段と流行したといわれる。今日でも芸術品として珍重される作品が残されている。

 日本では,奈良朝のころにすでに用いられていた記録もある。江戸時代には宮中御用造花師として花林伊右衛門の名も残っており,民間の造花師としては,江戸京橋の花屋忠兵衛が婚礼用の造花を専業とし名をはせた,という。明治に入ると,洋装の普及などとともに服飾用造花が急速に発達した。

 素材は歴史とともに多様になり,金,銀のころから,布,羽毛,貝,べっこう,石,角,鉄,磁器,ガラス,皮革,紙,糸,木,竹,植物の種子や樹皮,そして近年の石油化学製品(プラスチック,ビニル)と種類がふえている。とくにプラスチック材によって,植物のさまざまな部分が,個々に鋳造され,組み合わされて造花,人造植物,人造果物が大量生産されている。日本へは,香港フラワーとして中国の汕頭(スワトウ)や香港地方から多量に輸入され,主として店頭装飾用に用いられている。今日のような冷暖房設備の整った建物では,生花の代用として好適であり,汚れは洗うこともできることから広範囲に利用されている。最近,家庭婦人のあいだで,手芸としての造花作りが盛んになり,絹,木綿,その他の布を使ってのアート・フラワー,リボンを使うリボン・フラワー,クレープペーパーなどの紙を主体とするペーパー・フラワー,羽根で作るフェザー・フラワー,小麦粉を練って作るパン・フラワーなど,その素材によっては固有名詞化されているものもあるくらいに趣味の造花は普及している。これらの中には,生花を模倣したものだけではなく,創作としての造花のくふうも進みつつあり,造花も時代とともに変化している。
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世界大百科事典(旧版)内の造花の言及

【切紙細工】より

…遊戯的な切紙細工としては,そのほかヨーロッパで古くから行われるハンド・ドラゴンがあり,切紙の着物や人形を指先にはめてあやつり,見世物にもされた。 造花も切紙模型の一種で,《万葉集》の掾久米朝臣広縄(じようのくめあそんひろなわ)の和歌にもうたわれており,当時は綵(あやぎぬ)製であったといわれる。《枕草子》にも梅の造花に関する記録があり,江戸時代になると寒冷紗(かんれいしや)や薄紙でつくられるようになった。…

【花】より

…峠の名に花立峠,花折峠,柴立峠というのがあるが,ここを越すものが〈さかき〉であるシキミやサカキの枝を〈はな〉として路傍に立て,道中の平安を祈ったのでこの名がついたという。 また奈良薬師寺の花会式(はなえしき)や東大寺の御水取など,古式の法会には,しばしば造花が用いられる。もとは〈削りかけ〉とか〈削り花〉と呼ばれるもので,木の枝の表面を小刀で薄く削りかけると,枝の先にちぢれた薄片が花びらのようにつく。…

※「造花」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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