日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
防火セイフティマーク制度
ぼうかせいふてぃまーくせいど
不特定多数の人が利用する百貨店、映画館などの大規模施設が防火基準に適しているかどうかを自主点検し、適している場合にセイフティマークを表示できる制度。改正消防法に基づき、消防機関が定期点検して付与していた「適マーク」(防火基準適合表示)制度にかわって2003年(平成15)10月に導入された。正式名称は「防火対象物定期点検報告制度」。対象は収容人員300人以上の施設と、特定用途が地下または3階以上にあり屋内に避難用階段が1か所しかない収容人員30人以上300人未満の建物で、旅館、ホテル、劇場、飲食店、風俗店、病院、福祉施設、幼稚園、地下街などが該当する。消防法や火災予防に関する専門知識をもった防火対象物点検資格者が年1回、基準にあった消防施設が設置されているか、消火・通報・避難訓練を実施しているかなどを自主点検し、地元消防機関へ報告する。点検基準に適合していれば、対象施設は「防火基準点検済証」を表示できる。また消防機関の検査を受け、過去3年間消防法令を遵守しているとみなされた施設は特例認定され、点検・報告の義務を3年間免除される。特例認定された施設には「防火優良認定証」を表示できる。「防火基準点検済証」と「防火優良認定証」をあわせて防火セイフティマークとよぶ。なお、点検結果の虚偽報告や未報告には、30万円以下の罰金または拘留の刑が科せられる。
従来、百貨店などの大規模施設は消防機関が年1回立入検査を行い、基準を満たした施設に「適マーク」を与える制度があった。しかし大規模施設の増加で消防署の点検業務が追いつかないうえ、2001年に東京都新宿区歌舞伎(かぶき)町の「適マーク」対象外の雑居ビルで44人の死者を出す火災が発生。消防機関の定期点検よりも罰則付きの自主点検制度のほうが効果的であるとの判断から、適マーク制度が廃止され、防火セイフティマーク制度に移行した。なお防火対象物定期点検報告の義務のない旅館やホテルなどでも、自主点検報告して基準に適合すれば「防火自主点検済証」(新適マーク)を表示できる。
[矢野 武 2016年6月20日]