日本大百科全書(ニッポニカ) 「雅文小説」の意味・わかりやすい解説
雅文小説
がぶんしょうせつ
王朝風の典雅な和語を用いて書かれた小説。森鴎外(おうがい)の『舞姫』や『即興詩人』など、明治初期の雅文体の小説をいうこともあるが、一般には、近世の中期、国学者系の文人によって書かれた擬古文体の小説をさしていう。芸文を俗(現実)と分かつ雅(が)の意識と、古典・古語の教養をもって書かれた建部綾足(たけべあやたり)の『西山(にしやま)物語』や上田秋成(あきなり)の『雨月(うげつ)物語』に代表され、先蹤(せんしょう)として荷田在満(かだありまろ)の『白猿(しろざる)物語』や『落合物語』があげられている。また、やや下った文化(ぶんか)(1804~18)のころ書かれた石川雅望(まさもち)の『近江県(おうみあがた)物語』や『飛騨匠(ひだのたくみ)物語』、村田春海(はるみ)の『竺志船(つくしぶね)物語』などを、後期の読本(よみほん)一般と区別する概念としても用いられている。
[中村博保]
『『雅文小説集』(1915・有朋堂文庫)』▽『中村幸彦他校注・訳『日本古典文学全集48 英草紙・西山物語・雨月物語・春雨物語』(1973・小学館)』