静脈洞感染症

内科学 第10版 「静脈洞感染症」の解説

静脈洞感染症(細菌感染症)

(4)静脈洞感染症(cerebral venous sinus phlebitis)
概念
 細菌性髄膜炎および頭蓋近傍の化膿性病変,菌血症や心内膜炎,および頭部外傷から脳静脈洞への感染で起きる.発熱・頭痛を呈し,静脈洞血栓症を続発し,静脈性脳梗塞を伴う場合もある.上矢状静脈洞,横静脈洞と海綿静脈洞に好発する.診断は画像で確定し,治療は頭蓋内圧亢進の抑制と抗菌薬投与により行う.
病態生理
 細菌性髄膜炎,硬膜下膿瘍,硬膜外膿瘍,さらに中耳,乳様突起,副鼻腔,顔面皮膚の感染巣からの直達性が多い.菌血症や心内膜炎からの血行伝播,頭部外傷からでも発症する.したがって,起炎菌は副鼻腔や鼻・顔面の皮膚常在菌である連鎖球菌属やブドウ球菌属が多い.
臨床症状
 発熱と頭痛(静脈灌流障害による頭蓋内圧亢進),静脈血栓に起因した巣症状を呈する.①上矢状静脈洞血栓症:発熱と頭痛に巣症状として錯乱や部分痙攣・全般性痙攣を伴い,意識障害を呈する.さらに,Babinski徴候を伴う両側対麻痺や片麻痺を呈する場合もある.②海綿静脈洞血栓症:頭痛,発熱に加え閉塞部位による特徴的症候を呈する.眼静脈閉塞では結膜浮腫眼球突出,同側の眼瞼・額・鼻の浮腫を認め,網膜静脈では静脈怒張,乳頭浮腫および網膜出血を呈し,視力喪失する場合もある.海綿静脈洞壁の外側にⅢ,Ⅳ,Ⅵ脳神経とⅤ脳神経の第1枝が通るため,これらの障害(海綿静脈洞症候群)を呈す.③横静脈洞血栓症:発熱と頭痛・耳痛が多く,うっ血乳頭を呈する.横静脈洞に限局している場合は局所症状を認めにくい.しかし,頸静脈球に及ぶと頸静脈孔症候群(Ⅸ,Ⅹ,Ⅺ脳神経障害)を呈し,静脈洞交会に及ぶと頭蓋内圧亢進が進む.さらに,上矢状静脈洞まで進展する.
検査成績・診断
1)髄液検査:
髄膜炎や硬膜下膿瘍を伴わない場合,正常が多い.軽度の細胞増加と中等度の蛋白増加を示すこともある.
2)頭部CT・MRIとMRA(MRV):
CTでは静脈血栓は索状高信号域として,横静脈洞内のdense vein signや上矢状静脈洞のdense triangle signを示す.造影CTでは,血栓が欠損像としてぬけるempty delta signが知られている.静脈性梗塞が低吸収域としてみられることがあり,ときには出血性梗塞を呈する.MRIMRA(特に脳静脈をみるMRV)は診断上必須である.脳静脈灌流の遅延・障害やflow voidの欠如,血栓の異常信号域などがみられる.静脈性と動脈性梗塞との鑑別は,静脈性梗塞は動脈の支配領域に一致せず,また静脈性梗塞は動脈性のcytotoxic edemaでなく,vasogenic edemaであるため,拡散強調像で高信号にならず,T2強調像やFLAIR(fluid attenuated inversion recovery)像で高信号となる.
3)脳血管撮影:
現在でも確定診断として行われる場合がある.静脈相において脳静脈や静脈洞の閉塞や静脈灌流時間の遅延を呈する. 診断は,発熱,頭痛があり髄液所見で異常がない場合,本症を疑い画像にて上述の所見を確認する.
治療
 十分な水分補給と通常6週以上の長期高用量抗菌薬治療を基盤とし,血栓に対して抗凝固療法を行う.なお,抗浮腫薬や抗痙攣薬は適時併用する.[亀井 聡]
■文献
Adams RD, Victor M, et al: Intracranial septic phlebitis. In: Priciples of Neurology, 6th ed, pp710-712, McGraw-Hill, New York, 1997.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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