内科学 第10版 の解説
脳静脈洞血栓症・脳静脈血栓症(血管障害)
脳静脈洞が種々の原因による血栓で閉塞され頭痛などの脳圧亢進症状をきたすもので,血栓が静脈洞から脳表静脈に及ぶと脳局所症状を呈する.病変は脳静脈洞の血栓性閉塞が主体であるが,脳表静脈に血栓が進展した場合には大脳皮質に出血性梗塞がみられることもある. 原因は多彩であり,経口避妊薬や血液疾患などによる血液凝固能亢進が多いが,静脈洞周辺の感染(横静脈洞,海綿静脈洞),Behçet病などによる静脈炎,腫瘍による圧迫・浸潤,頭部外傷,膠原病,抗リン脂質抗体症候群,脱水,心不全,悪性腫瘍,および先天性アンチトロンビン,プロテインCおよびS欠乏症などの基礎疾患や麻薬などの薬物中毒があって妊娠や手術・外傷を契機に発症するものなどがある.
解剖
図15-5-24に示すように脳表の側面上半分の静脈は上矢状静脈洞(superior sagittal sinus)に注ぎ,下半分は浅中大脳静脈(superficial middle cerebral vein)から海綿静脈洞(cavernous sinus)へと注ぐ.一方,大脳基底核などの深部脳組織からは下矢状静脈洞(inferior sagittal sinus)やGalen大静脈を経て直静脈洞(straight sinus)に注ぐ.脳表面にはTrolard,Labbe,浅中大脳静脈などの大きな吻合静脈がある.
臨床症状
脳静脈洞炎による血液還流障害により,頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状を主体とし,発熱,意識障害,脳局所症状としての四肢不全麻痺や痙攣発作などをきたす.部位別症状としては(図15-5-24),上矢状静脈洞血栓症では痙攣発作や意識障害,下肢に強い不全片麻痺(両側性),脳ヘルニアをきたすことがあり,横静脈洞血栓症では脳圧亢進症状に加えて難聴や半盲,Gerstmann症候群などの巣症状をみることもある.海綿静脈洞血栓症では眼球突出や眼球結膜充血,眼球運動障害(外眼筋麻痺),三叉神経1・2枝障害(Tolosa-Hunt症候群)をきたす.脳深部静脈(内大静脈,Galen大静脈)血栓症では基底核や視床の出血性梗塞により,頭痛や発熱,意識障害,両側錘体路症状を呈し,死に至ることもある.
検査成績
CTスキャンでは,血管支配に一致しない境界不鮮明な出血性梗塞・脳浮腫を脳表中心に認めることが多い.造影CTでは上矢状静脈洞後半部での静脈洞内欠損像(empty delta sign)を呈し,MRI画像では罹患静脈洞のflow void信号が消失し,T1強調画像で等~高信号(図15-5-25上),T2強調画像で低信号を示す.MRA画像(静脈相=MR venography)では閉塞した静脈洞の欠損像として描出が可能(non-visualization)のことがあり,診断的価値がある(図15-5-25下).静脈洞自体が高信号として描出されることもある.出血性梗塞や脳浮腫は,病変が大脳皮質静脈に及んでいることを示している.脳血管撮影静脈相やMRA画像において,静脈洞閉塞や怒張した側副血行路(cork screw sign)をみる.
血液検査では,赤沈亢進と白血球の軽度増加を認める,血液凝固線溶系検査ではPTやAPTTは正常であるが,FDPとD-ダイマーは増加する.
診断
上記症状と脳画像検査で診断するが,原因が多彩なので原因検索が重要である.鑑別診断としては,通常の脳梗塞や脳腫瘍,脳膿瘍,脳炎などが重要で,病変が血管支配に一致するか否か,両側性か否か,髄液所見,血液検査所見,薬物服用歴,基礎疾患の有無などが鑑別のポイントとなる.
治療
通常はまずグリセロールやマンニトールなどの抗脳浮腫療法から開始し,ヘパリンを用いた抗凝固療法やウロキナーゼによる血栓融解療法も同時に行う.治療抵抗性の場合はマイクロカテーテル留置による直接的血栓融解療法を行うこともある.予後は急性期を乗り切れば一般に良好例であるが,急性期に脳圧亢進による脳ヘルニアをきたし死亡することがある.また脳深部静脈血栓症は予後不良のことが多く,上矢状静脈洞血栓症では痙攣重責状態をきたすこともあり注意を要する.[阿部康二]
■文献
Rael JR, Orrison WW Jr, et al: Direct thrombolysis of superior sagittal sinus thrombosis with coexisting intracranial hemorrhage. AJNR, 18: 1238-1242, 1997.
Rafique MZ, Bari V, et al: Cerebral deep venous thrombosis: case report and literature review. J Pak Med Assoc, 55: 399-400, 2005.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報