日本大百科全書(ニッポニカ) 「韓龍雲」の意味・わかりやすい解説
韓龍雲
かんりゅううん / ハンヨンウン
(1879―1944)
朝鮮の思想家、詩人、僧侶(そうりょ)。号は万海、俗名は裕天、龍雲は法名。1904年僧になり、三・一独立宣言書に仏教界を代表して署名し、以後死ぬまで民族主義者としての節を曲げなかった。論著に『朝鮮仏教維新論』『仏教大典』『朝鮮独立の書』ほか。文学書としては長編数編と詩集『ニムの沈黙』がある。1926年発行の同詩集巻頭の「ニムの沈黙」は近代朝鮮を代表する詩の一編といえる。「会う時に別れを憂うように別れる時にまた必ず会えると信じます/ああ、ニムは去ったけれども、わたしはニムを送りませんでした/思うにまかせないわたしの愛の歌はニムの沈黙を包んでめぐります」。このニムは恋人とも民族の独立ともとれ、さらに広く憧憬(しょうけい)の対象すべてともとれる。彼の詩は叙情的であると同時に思想的できわめて味わい深い。
[大村益夫]
『安宇植訳『ニムの沈黙』(1999・講談社)』