食わず女房(読み)くわずにょうぼう

改訂新版 世界大百科事典 「食わず女房」の意味・わかりやすい解説

食わず女房 (くわずにょうぼう)

昔話。独身者がものを食わない配偶者を求め,それに応じて嫁が来る。実際に何も食わない。しかし夫の留守中に一人で大めしを食う。男はそれをのぞき見て,女が頭の上に口のある化物であることを知る。男は山に連れ去られるが危うく逃れて家に帰る。その日が5月5日の節供であったと説く例は多く,この日にヨモギショウブを飾る習いの起源をいう。女の正体山姥(やまうば),鬼あるいは蛇,クモだとする。西日本に行くにしたがってクモをいう傾向が著しい。夫の目の前で食事をしない理由は,共食を避ける点にあろう。相手は元来異郷からのものであると表明したとも言える。また共食をせずに,夫から離れ一定期間山に入る女の姿に〈籠(こも)り妻〉の民俗がうかがえる。〈Wife eats so little〉という同じ話型は,インドスペインにも認められる。しかし外国では笑話に分類され,日本の話との関連は必ずしも濃くない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「食わず女房」の意味・わかりやすい解説

食わず女房
くわずにょうぼう

昔話。人を食う怪物を退治することを主題にした逃走譚(たん)の一つ。けちな男が飯を食わない女を妻にする。ある日、出かけたふりをしてうかがうと、妻は頭の上の大きな口を開き、飯を食っている。妻を追い出そうとすると、妻は男を桶(おけ)の中に入れて山に連れて行く。途中で男は逃げる。結末は、妻が蛇あるいは山姥(やまうば)になって追ってくるのを、男はショウブやヨモギの中に隠れて助かったといい、5月5日の節供にこれらの草を軒に挿す由来になっているものと、妻が、夜、蜘蛛(くも)になって命をとりにくるといったので、夜の蜘蛛を殺したといい、夜の蜘蛛を忌む由来になっているものとが多い。妻の頭の口を蛇の口とする話もあり、この山姥の原形は蛇らしい。蛇も蜘蛛も水の霊の姿とされ、宗教的本質は変わりがない。男を桶屋とする例が多いのは、旅をする桶屋が話の語り手であったからであろう。なにも食べないはずの妻が、夫の留守中にものを食べている話は、ヨーロッパ各地や西インド諸島のスペイン系住民の間に多く分布しており、なかには、妻の正体は魔物であったという点まで一致している話もある。

[小島瓔

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「食わず女房」の解説

食わず女房 くわずにょうぼう

昔話の主人公
飯をくわない女房をほしがる男にとつぐ。頭の中央の口をあけて大飯をくっているのを夫に目撃され,夫を桶(おけ)にいれて山につれだす。夫はにげだして菖蒲(しょうぶ)と蓬(よもぎ)の茂みにかくれてたすかる。5月5日のことだったので,その日には菖蒲と蓬を魔よけにするようになった。女房の正体は西日本ではクモ,東日本では山姥(やまうば)や鬼などといわれる。

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