化学辞典 第2版 「高分子溶液論」の解説
高分子溶液論
コウブンシヨウエキロン
theory of polymer solution
個々の分子の物理化学的研究には,分子間相互作用がもっとも小さい気体状態を対象とするのが都合がよい.また,分子間相互作用の研究でも,二体相互作用の和で記述できるという意味で,気体状態を選ぶのが最適である.ところが,高分子は分子量が大きいため,蒸気圧が小さく,気化する前に分解してしまう.このため,気体状態にかわって希薄溶液状態での物性が理論的実験的に広く研究されている.これが高分子溶液論という分野の出現の背景であり,今日でも高分子溶液論の二つの柱のうち,一方の柱は希薄溶液に対するものである.十分に希薄な状態でも,低分子溶液と異なり,分子鎖長が大きく,空間的に接近しているセグメント間の相互作用,すなわち,排除体積効果を考慮に入れなければならない.このため,クラスター積分のような古典統計力学的方法からボース粒子の生成消滅演算子のような量子統計力学的方法まで,種々の多体問題の方法論が駆使されており,高分子科学のなかでもっとも美しい理論体系をもつ.反面,極限粘度数と粘度平均分子量とが対応することから,工業的にも重要な意味をもつ.これに対して,もう一方の柱である濃厚溶液系の取り扱いは,相互作用が複雑なため,主として熱力学レベルでの研究がすすめられている.いわゆる,異常エントロピーはその成果の一つで,さらに“からみあい”についても活発な研究がされている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報