日本大百科全書(ニッポニカ) 「鳥羽の恋塚」の意味・わかりやすい解説
鳥羽の恋塚
とばのこいづか
長唄(ながうた)の曲名。1903年(明治36)4月、研精会(けんせいかい)の作品として、半井桃水(なからいとうすい)作詞、4世吉住(よしずみ)小三郎作曲でつくられた。渡辺渡(わたる)の妻袈裟(けさ)を恋した遠藤武者の盛遠(もりとお)が、渡に姿を変えた袈裟御前を、それと知らずに殺したため出家し、後を弔うというもので、『源平盛衰記』に題材をとる。長唄を歌舞伎(かぶき)や舞踊から切り離し、音楽そのものを鑑賞する新しい方向づけを行った作品。曲全体が物語に重点を置いて浄瑠璃(じょうるり)的に作曲され、合方(あいかた)も凝った旋律を用いている。長唄の可能性を模索した当時の意気込みが随所にうかがわれ、密度の濃い、重厚な、また演奏もなかなか困難な作品となっている。
[茂手木潔子]