改訂新版 世界大百科事典 「1984年」の意味・わかりやすい解説
1984年 (せんきゅうひゃくはちじゅうよねん)
Nineteen Eighty-Four
イギリスの小説家G.オーウェルの逆ユートピア小説。1949年刊。1984年の架空の超大国オセアニアにおける,全体主義的支配の様相を描いた著者晩年の作品。権力集中が自己目的化した党による大衆(プロレ階級)支配,支配手段としての恒常的な戦争状態の維持,半ば神格化した指導者ビッグ・ブラザー崇拝,個人生活の監視,思想統制を目的とする言語の簡略化,党の無謬(むびゆう)性を証明するための歴史の書きかえなど,あらゆる支配機構が内包する危険性が未来小説の形で提示される。共産主義やナチズムの制度から材料をひいたこの作品は,おりからの冷戦ムードにのって出版後1年間に英米だけでも約40万部の売行きを示し,日本でも,早くも1950年に翻訳された。反共宣伝と受けとる向きもあるが,《1984年》は,体制のいかんを問わず,当時の社会およびその延長としての現代社会がはらむ全体主義的精神風土に対する警告の書である。
執筆者:鈴木 建三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報