Addison病・急性副腎不全

内科学 第10版の解説

Addison病・急性副腎不全(副腎皮質)

概念
 副腎に原発した病変によって発症した慢性の副腎皮質機能低下症をその発見者にちなんでAddison病と称する.原因として副腎結核による場合と自己免疫の機序がありそれぞれ結核性Addison病,特発性Addison病と称される.急性副腎不全は副腎皮質機能が急激に低下した状態であり放置すれば致命的な状態(副腎クリーゼ)に陥る.
病態生理
 副腎皮質は3層(球状層,束状層,網状層)で構成され,各層から固有のステロイドホルモンが産生されている.球状層のアルドステロンは水・電解質作用,束状層のコルチゾールは糖および脂質代謝作用を有し,網状層のアンドロステンジオンからは性ホルモンであるテストステロンが生成される.Addison病の原因は従来,副腎の結核によって発症することが多いとされていたが近年結核が減少したことから,結核に代わって自己免疫機序により副腎が萎縮し機能低下症を生じる特発性Addison病が相対的に増加している.一般に副腎の機能低下は副腎が90%以上破壊されないと発症しないとされており障害が慢性的に進行する場合には無症状の時期を経ると考えられる.特発性Addison病では副腎皮質のステロイド合成酵素である17-ヒドロキシラーゼや21-ヒドロキシラーゼに対する自己抗体が血中に証明される.またほかの自己免疫疾患と合併することがあり慢性甲状腺炎との合併はSchmidt症候群として知られる.結核性Addison病では副腎髄質の機能も低下するため低血糖,低血圧症が特発性Addison病に比べ高度となる傾向がある.Addison病ではコルチゾールによる下垂体前葉への負のフィードバックが解除されるためPOMC(プロオピオメラノコルチン)由来のACTH,β-LPHが過剰分泌される.その結果,本症に特徴的な皮膚や粘膜の色素沈着が生じる.コルチゾールは腎尿細管において抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)に拮抗する作用があり,Addison病では水利尿が低下し希釈性低ナトリウム血症に陥りやすい.アルドステロンの低下が加わるとNa貯留作用が減弱し塩分喪失状態,脱水が増強する.
 一方,急性副腎不全の原因としてAddison病の急性増悪,副腎出血,コルチゾール補充量療法の突然の中止,コルチゾール産生腺腫の術後などがある.感染症や手術のストレス時にはステロイドの必要量が増大するがAddison病の経過中に補充が不足した場合に急性副腎不全を合併することがある.重症感染症に副腎出血が合併しショック状態に陥った病態はWaterhouse-Friderichsen症候群と称され皮下出血斑を伴い小児にみられる.
 Cushing症候群の臨床症状を伴わないコルチゾール産生腺腫はサブクリニカルCushing症候群と称されているが,このような症例で副腎腺腫を摘出すると術後副腎機能低下に陥る.副腎腺腫の摘出術を実施する前に,必ずコルチゾールの自律性分泌の有無を確認し,デキサメタゾン非抑制や血漿コルチゾールの日内変動が消失している(夜間にコルチゾールが低下しない)場合には術後にグルココルチコイドの補充が必要である.凝固異常による出血傾向がある場合には副腎出血の可能性も考えられるので適宜内分泌検査により確認する.最近ではAIDSが増加しているが,副腎皮質機能低下症が合併することを念頭におく.
臨床症状
 Addison病は副腎の障害が90%をこえると臨床症状を呈する.初期症状はコルチゾールの作用の減少による易疲労感,脱力感,食欲不振,悪心,精力減退などの非特異的症状がみられる(表12-6-5).さらに進行すると粘膜や手術痕部の色素沈着,女性における腋毛や恥毛の脱落,無月経,体重減少,低血圧,低血糖症状などが発現する.Addison病では症状の進行は緩徐であるが,内分泌検査を行えば副腎機能が種々の程度に低下していることが観察される.色素沈着はAddison病において高頻度で出現するが,その分布も特徴的である.口腔粘膜,歯肉部,舌,手掌の皮溝,皮膚の圧迫部位(膝,肘,手指関節,腰ベルト部など)を観察する(図12-6-15).循環血漿量の低下は起立性低血圧の原因となる.レニン基質はアンジオテンシン生成の律速因子であるが,コルチゾールにはレニン基質の産生促進作用がある.Addison病では循環血漿量の減少が刺激となりレニン分泌が増加しても,アンジオテンシンの生成は亢進していない.副腎皮質機能低下症では昇圧系は減弱している.
検査成績
 コルチゾールの基礎分泌および予備能が低下している.副腎皮質機能は血中コルチゾールと尿中のグルココルチコイド排泄量(遊離コルチゾール)を測定する.デヒドロエピアンドロステロン(DHEA),アンドロステンジオン(AD)などの血中濃度は低下し,アンドロゲンの尿中代謝物である17-KSも低値となる.原発性副腎皮質機能低下症では下垂体に対する負のフィードバックの抑制が減弱するため血中ACTHは上昇する.副腎皮質予備能は合成ACTH(テトラコサクチド酢酸塩250 μg)を筋注し血中コルチゾールの反応性で評価する.軽度の副腎皮質機能低下症の検出のためには少量の合成ACTH(1 μg)を用いる場合もある.球状層の機能は血中アルドステロンやデオキシコルチコステロン(DOC)を測定する.血中濃度を測定し基礎値を評価する.予備能はコルチゾールと同様,ACTH負荷時の反応性を調べる.アンジオテンシンⅡはアルドステロンの選択的な刺激物質であるが現在一般的な臨床検査試薬として認可されていない.血液生化学検査では軽度の貧血,低ナトリウム血症のほか,障害が高度な場合には高カリウム血症,レニン活性の上昇,血糖の低下がみられる.血中,尿中のカテコールアミンは結核性Addison病や悪性腫瘍の転移のように副腎髄質が破壊されている場合には低下するが,特発性Addison病のような副腎皮質のみ障害されている場合には低下しない.
診断・鑑別診断
 自覚症状,臨床症状,病歴から副腎皮質機能低下症を疑う.軽症の場合には消化器症状,筋・神経症状などの不定愁訴によってほかの疾患と疑診されやすい.血中および尿中の副腎皮質ステロイドとその代謝物排泄量の低値,刺激に対する低〜無反応を証明する.血中ACTHの高値が確認されればAddison病と診断される.胸部X線で肺結核の病変があって腹部CTで副腎の腫大や石灰化が証明されれば結核性Addison病と診断される.副腎が縮小して萎縮が疑われ慢性甲状腺が合併している例では自己免疫の機序が考えられる.抗インスリン抗体が出現している場合には糖尿病を合併することが報告されている.副腎に対する自己抗体の出現率は高くないので陰性の場合でも否定はできない.17α-ヒドロキシラーゼ,21-ヒドロキシラーゼに対する抗体は感度,特異性は高いが普及していない.
 鑑別すべき疾患として下垂体性副腎皮質機能低下症,肺癌などの副腎転移がある.ACTHの低下とCRH(コルチコトロピン放出ホルモン)に対するACTHの低~無反応があれば下垂体機能低下による二次性副腎機能低下症である.二次性副腎機能低下症は下垂体に対する自己抗体や出産時の大量出血が原因となることが多い.易疲労感,食欲低下,貧血,低ナトリウム血症など自他覚症状はAddison病と類似しているが色素沈着を欠く.
 重症感染症に伴う急性副腎機能低下症はエンドトキシンによる副腎出血が原因となっていることがあり,起炎菌となるグラム陰性桿菌,髄膜炎菌が血液培養で検出される.
 一方,ステロイド合成阻害薬はCushing症候群の治療に用いられているが,阻害効果が強いと副腎不全に陥る.トリロスタン(デソパン)やミトタン(オペプリム)はおもにステロイド合成の初期段階を抑制するが,メトピロンはミトコンドリアの11β-ヒドロキシラーゼを特異的に阻害しコルチゾール産生抑制効果は強い.メトピロンは下垂体予備能検査としても使用されており,内分泌検査の目的には3 g/日を投与するが,症例によってはこの投与量によって副腎機能を低下させる.ステロイド合成阻害薬投与中は血中コルチゾールを測定し医原性の急性副腎不全を避けなければならない.急性副腎不全はそれまで気づかれずに突然発症するので救急外来において原因不明のショック患者を診た場合には本症を疑うこと.
経過・予後
 Addison病は慢性に経過する疾患であり適正な補充療法により予後は良好である.しかし悪性腫瘍の副腎転移や重症の結核による場合は予後は基礎疾患次第である.経過中,感染症,手術などを契機に副腎クリーゼを発症することがある.Waterhouse-Friderichsen症候群では早期に治療されなければ予後は不良である.
治療
 Addison病に対する治療はコルチゾールの補充療法である.ヒドロコルチゾン(コートリル15~20 mg/日を朝10~15 mg,夕5 mg)を経口投与する.感染症や発熱時,抜歯などストレス時には2倍ないし3倍量を投与する.結核性Addison病で肺結核に対してリファンピシンが投与されている場合にはステロイドの補充量は1.5倍増量する必要がある.リファンピシンによってコルチゾールの代謝が促進されるためである.ミネラルコルチコイドの補充は通常必要としないが起立性低血圧を合併する場合には9α-フルドロコルチゾン(フロリネフ0.1 mg/日)を併用投与する.グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドの補充が適正かどうかはACTHおよび血漿レニン活性(またはレニン濃度)を測定する.補充が適性であれば基準値の範囲内に抑制されている. 急性増悪や急性の副腎不全の治療は水溶性ヒドロコルチゾンの静脈内投与と同時に循環虚脱に対する治療を行う.病歴や臨床症状から副腎クリーゼが疑われる場合には血漿コルチゾールの測定結果を待たずに水溶性ヒドロコルチゾンをまず100 mg静注する.その後6時間おきに100 mgを点滴静注する.ショック状態にある場合には電解質輸液を行い血糖値が低下していればグルコースを追加する.ヒドロコルチゾンの補充によって血糖,低ナトリウム血症,循環血漿量の改善は得られるが,緊急時にはグルコースを含む電解質輸液が不可欠である.[宮森 勇]
■文献
Sharma ST, Nieman LK: Cushig’s syndrome: All variants, detection and treatment. Endocrinol Metab Clin N Am, 40: 379-392, 2011.
Stewart P: The Adrenal cortex. In: Williams Textbook of Endocrinology (Larsen PR et al eds), pp491-551, Saunders, Phyladelphia, 2002.
Terzolo M, Bovio S, et al: Subclinical Cushing’s syndrome in adrenal indicentalomas. Endocrinol Metab Clin N Am, 34: 423-440, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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オランダの生理学者。旧オランダ領ジャワ島のスマランに、陸軍軍医の子として生まれた。陸軍の給費学生としてユトレヒト大学に学び、医師となった。1886年ライデン大学の生理学教授に任ぜられ、兵役を免除された...

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