日本大百科全書(ニッポニカ) 「テストステロン」の意味・わかりやすい解説
テストステロン
てすとすてろん
testosterone
ステロイド系の雄性ホルモン(男性ホルモン)のうち、もっとも強い作用を示す化合物C19H28O2である。ウシ、ウマ、ブタなどの精巣(睾丸(こうがん))から抽出されるが、コレステロールから化学合成によってつくられ医薬品として使われる。生体内でも精巣のライディッヒLeydig細胞においてコレステロールからデヒドロエピアンドロステロンを経てつくられている。血中テストステロンの95%はLeydig細胞由来である。雄性ホルモンとして最初に発見されたアンドロステロンは、テストステロンの代謝産物である。下垂体の間細胞刺激ホルモン(黄体形成ホルモンと同じ物質)の作用により分泌が促進されて雄性の性徴を発現させ、雄性生殖器の発育を促し、その機能維持に役だつ。雌性のテストステロンは黄体で産生され、血中濃度は雄性の約10%である。
血中では約98%が性ホルモン結合グロブリンおよびアルブミンと結合している。結合していない残りの約1~3%の遊離テストステロンが生物活性を有しており、組織においてただちに利用される。すなわち、標的細胞の細胞膜を通過して細胞膜のアンドロゲン受容体に結合した後、核内に移行して標的遺伝子の転写を促進する。テストステロンの分泌過剰疾患としてクッシングCushing症候群、副腎癌(ふくじんがん)、副腎性器症候群、精巣腫瘍(しゅよう)(ライディッヒLeydig腫瘍)、卵巣腫瘍、突発性多毛症、甲状腺機能亢進(こうじょうせんきのうこうしん)症などがあり、分泌抑制疾患としてはクラインフェルターKlinefelter症候群(青春期硬化病と精管変性によりおこる宦官(かんがん)症)、緊張性筋ジストロフィー、甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症、性腺機能低下症などがある。
[菊池韶彦・小泉惠子]
『細井康男監修『ホルモンミニバイブル――からだをいきいきさせるホルモンのすべて』(1998・同文書院)』▽『ジェイムズ・M・ダブス、メアリー・G・ダブス著、北村美都穂訳『テストステロン――愛と暴力のホルモン』(2001・青土社)』▽『植松俊彦他編『シンプル薬理学』改訂版(2004・南江堂)』▽『田中千賀子他編『NEW薬理学』(2007・南江堂)』