テレビジョン番組制作手法の一つ。electronic news gathering(電子的ニュース取材)の略称。
テレビ放送が始まって以来、ニュース取材はカメラマンが16ミリフィルムカメラを持って現場に行き撮影する光学的手法が使われていた。16ミリフィルムカメラは小型で狭い現場にも持ち込めるため、機動性に優れ、生々しいようすを直接各家庭に伝えることができる利点がある。しかし、撮影後フィルムを現像所まで運搬した後に、現像・切り貼り編集などが必要なため放送までに時間がかかり、ニュースの生命である速報性に難があった。また、カラーフィルムが高価なことも難点であった。
1960年代に、ビデオカメラとオープンリール式VTR(ビデオテープレコーダー)を使った電子的取材方式が開発された。しかし初めは機材が大型で重いため大型バスほどの大きさの中継車が必要で、狭い場所に入ることができず機動性に欠けていた。また電源投入後機器が安定するまで時間がかかったり、オープンリール式VTRのテープ掛け換えに手間と時間がかかったりするなどの欠点があった。1970年代初めになると、高性能の肩乗せ型カラーテレビカメラと小型のVTRをケーブルでつないたシステムが開発され、機動性が増した。1974年にアメリカのテレビジョン放送局CBSやNBCはこのシステムを用いてニュース取材を積極的に行い、報道の迅速性と経費節約に有効であることを立証した。ENGという名は、このころCBSのエンジニアが社内で用いていたものといわれるが、システムの普及に伴いその後一般名化されるようになった。ENGが日本に導入されたのは1975年(昭和50)で、まず沖縄海洋博覧会の開会式の取材に使われたが、本格的に利用されたのは同年の天皇訪米の取材からであった。ENG用のシステムは、初めはカメラとVTRが分離されていたため、それぞれを担ぐ2人の要員が必要であったが、1982年、ソニー社によってカメラとVTRとが一体化されたカムコーダーが開発されてからは、カメラマン1人で操作ができるようになった。カムコーダーは操作に要する人数が少なく、小型車を利用して狭い所にも入って取材することができるなど、機動性に優れている。フィルムカメラで不可欠であった現像や手切り編集が不要なので、現場から可搬型マイクロ波中継器を使って放送局に直接撮影した素材を送ることができ、速報性が格段に向上した。カムコーダーは時代とともに進化し、1995年(平成7)にはソニー社からDV(digital video)規格によるデジタルカムコーダーが発売され、2000年代になると、磁気テープにかわってDVD、ハードディスク、フラッシュメモリー(コンパクトフラッシュやSDメモリーカードなど)が記録媒体として用いられるようになった。2000年代後半からハイビジョン画質で撮影・記録が可能なカムコーダーの開発が進められ、いくつかの変遷を経て2006年(平成18)にはAVCHD(advanced video codec high definition)とよばれる規格を用いた、高画質・高効率のハイビジョンカムコーダーが発売された。
カムコーダーはENG用に適した多くの利点があるため広く普及し、現在では多くのニュース取材がこの方式によって行われている。また、ENGの発端はニュース取材にあったが、その後用途が拡大されて一般的なテレビ番組制作にも用いられるようになり、海外取材、ドキュメンタリー、ロケーション、さらにコマーシャル制作などにも普及している。用途を拡大したこれらのシステムは、ENGより広いイメージを表すEFP(electronic field production)あるいはEJ(electronic journalism)などともよばれることもある。
ENG用の機器は、環境に恵まれたスタジオカメラと違い、屋外で使用することが多く、風雪にさらされたり、温度や湿度の変化が激しい場所で使われたりするなど、悪環境下でも正常に動作することが必要である。このため信頼性、安定度の確保がとくに重要である。
ENG用機材として、これまでカムコーダーが使われてきたが、2009年になって、デジタル一眼レフカメラに動画撮影機能が標準装備されるようになり、これを用いて高品質の動画撮影を行うことができるようになった。動画撮影機能をもったデジタル一眼レフカメラは、小型で扱いやすく、フラッシュメモリーを用いる記録機構も備えているなど、ENG用機材に適した機能と品質をもっている。そのため、ENG用に使われることが多くなっており、将来はカムコーダーにかわって主流となるものと考えられる。なお、カムコーダーと動画撮影機能をもったデジタル一眼レフカメラ応用の詳細については、「ハンディ・カメラ」の項目も参照されたい。
[吉川昭吉郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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