内科学 第10版 「Hansen病」の解説
Hansen病(抗酸菌症)
Hansen病は,らい菌(Mycobacterium leprae)による慢性感染症であり,おもに皮膚と末梢神経に病変を生じる.日本人新規患者は年間数人程度と大幅に減少している.感染経路は飛沫感染といわれており,免疫系が十分に機能していない乳幼児期に,M. lepraeを多数吸入することにより感染が成立する.治療は多剤併用療法を6カ月から1年間行う.
分類
免疫能に基づいたRidley-Joplingの分類があるが,WHOでは,発展途上国などで簡便に治療法を決定するために,MB(多菌型),PB(少菌型),SLPB(単一病変少菌型)の3種類の分類を行っている.わが国でもWHOの分類を用いている.
疫学
Hansen病患者の新規発生数の多い国は途上国であるが,新規患者数は,早期発見と多剤併用療法により年々減少している.日本では20世紀初頭には有病率が人口10万対70ほどあったが,現在では日本人新規患者は年間数人程度と大幅に減少している.1980年以降に生まれた日本人のうち,新規患者は発生していない.2000~2009年の10年間における97人のうち69人(71.1%)が外国籍である.
病態生理
感染経路は飛沫感染といわれており,免疫系が十分に機能していない乳幼児期に,M. lepraeを多数吸入することにより感染が成立する.その後数年から数十年の潜伏期を経て発病するが,生体側の免疫能などさまざまな要因が発病に関与している.小児期以降の感染では,発症することはないといわれている.
臨床症状
Hansen病は皮膚症状と末梢神経障害を主徴とするが,それぞれが多彩な症状を呈する.症状としては,皮膚の白斑または紅斑,皮疹部の知覚脱失または低下,手足の知覚異常,手足および眼瞼の運動の低下,神経の痛みや圧痛,顔や耳朶の腫れやしこり,手足の無痛性外傷や火傷(温痛覚麻痺が原因の受傷)などがあげられる.
診断
(日本ハンセン病学会,2006)
Hansen病では,①知覚低下を伴う皮疹,②末梢神経の肥厚,神経麻痺,運動障害,③皮膚スメア検査によるM. leprae陽性,④病理組織所見を認めることが診断となる.PCR検査は皮膚組織や組織液などからM. leprae特異的なDNAを証明する検査だが,実施検査機関はハンセン病研究センターのみである.
治療・予防・リハビリテーション
(日本ハンセン病学会,2006)
WHOは,リファンピシン(RFP),ジアフェニルスルホン(DDS),クロファジミン(CLF)の3薬物を用いた多剤併用療法を推奨し,6カ月(PB)から1年間(MB)内服を行うことが基本となっている.日本で保険適応になっている抗Hansen病薬はRFP,DDS,CLFのほかオフロキサシンの4剤である.予後良好であるが,経過中にらい反応が出現する場合があり,皮疹の増悪とともに,神経の炎症が強度に出現し,ステロイド投与が必要となる場合がある.
検査・診断・治療のアドバイスをするネットワークが日本ハンセン病学会内にあり,ハンセン病研究センターへも問い合わせ可能である.[永井英明]
■文献
日本ハンセン病学会:ハンセン病治療指針(第2版). 日本ハンセン病学会誌, 75: 191-226, 2006.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報