第三世代の光ディスクの一種。HD DVDはHigh Definition DVD(ハイデフィニション=高精細DVD)の略。2002年(平成14)東芝と日本電気(NEC)が共同でDVDフォーラム(DVDの規格の策定や普及促進などを目的とする組織)に提案し承認された。ほぼ同時期に韓国の三星(サムスン)電子などによる共同組織ブルーレイディスクファウンダーズ(Blu-ray Disc Founders:BDF)によって決められた規格であるブルーレイディスク(BD)に対抗したものである。BDもHD DVDもディスクのサイズは同じで、青紫色レーザー光を使う点など共通点も多いが、システムとしての関連はまったくない。両者間には開発思想に大きな違いがある。すなわち、BDが従来のDVD規格にとらわれることなく、第三世代光ディスクとして最適な方式を追求したのに対して、HD DVDはDVDファミリーの一員の位置づけで、DVDの規格を継承・高規格化することを目的としたものである。同じ時期に同じ目的の2方式の製品が市場に出るのは消費者にとって好ましいことではないため、規格の統一が検討されたが、深い論議に入ることもできないまま検討は時間切れになった。
HD DVDは直径12センチメートルディスクで、記録面が1層の場合は15ギガバイト、2層では30ギガバイトの記録ができる。読み出し専用のHD DVD-ROM(ロム)(High Definition DVD Read Only Memory)、1回だけ書き込み可能なHD DVD-R(High Definition DVD Recordable)、繰り返し書き込み可能なHD DVD-RW(High Definition DVD Rewritable)が用意された。HD DVDはDVDとディスク構造が似ているため、DVD製造設備の一部が流用できてコスト低減が可能というメリットがあるといわれたが、BDの量産化が進んでコスト低下が実現すると、このメリットは少なくなってゆく。BDに比べて保護層が厚いため、ディスクの損傷が少ないとされたが、BDの保護層対策が完成して薄い保護層でも損傷の影響を受けにくくなってからは、あまり違いはなくなった。記録容量がBDのそれよりも小さいのは弱点で、たとえば1層のHD DVD-RでBSデジタルハイビジョン放送(当時)を録画するとき、収録可能な時間は75分で、BD-RおよびBD-RE(Rewritableの略。繰り返し書き込み可能なBD)の130分に比べて短い。記録容量が小さいことは、発売当初から最後までHD DVD陣営が苦戦を強いられる大きな要因となった。
光ディスクの利用に影響力の大きいアメリカの映画産業の支持は当初BD、HD DVD両陣営に対してほぼ互角であったが、しだいにBD支持が多くなり、市場の大勢は急速にBD有利になっていった。2008年に東芝がHD DVDからの撤退を表明し、HD DVDは短期間でその使命を終えた。
[吉川昭吉郎]
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