α-アミラーゼ(読み)あるふぁあみらーぜ(その他表記)α-amylase

日本大百科全書(ニッポニカ) 「α-アミラーゼ」の意味・わかりやすい解説

α-アミラーゼ
あるふぁあみらーぜ
α-amylase

デンプンの内側のα(アルファ)-1→4結合加水分解する酵素。動物の唾液(だえき)や膵臓(すいぞう)、麦芽などの植物、微生物などに広く分布する。ジアスターゼ(通常は麦芽由来のα-アミラーゼをさす)、プチアリン(通常は唾液中のα-アミラーゼをさす)、グリコゲナーゼともいう。系統名は1,4-α-D-Glucan glucanohydrolase。国際生化学連合(現在は国際生化学・分子生物学連合)の酵素委員会が制定した酵素番号はEC3.2.1.1。

 一般にデンプンを加水分解する酵素をアミラーゼと総称する。アミラーゼには、(1)デンプン鎖の内側の結合をランダムに切るエンド(endo-、内部の意味)型アミラーゼと、(2)デンプン鎖の非還元末端から特定数のグルコースを切り離していくエキソ(exo-、外側の意味)型アミラーゼとがある。(1)にはα-アミラーゼやイソアミラーゼ(常用名。系統名はGlycogen 6-glucanohydrolase。EC3.2.1.68)がある。(2)にはデンプンからグルコースを切り離すグルコアミラーゼ(常用名。系統名は1,4-α-D-Glucan-glucohydrolase。EC3.2.1.3)、マルトース(グルコースが二つ脱水結合したもの)を切り離すβ(ベータ)-アミラーゼ(常用名。系統名は1,4-α-D-Glucan-maltohydrolase。EC3.2.1.2)などがある。

 常用名でα-アミラーゼ、β-アミラーゼとよばれる両酵素とも、系統名に1,4-α-とついていることでわかるように、α-グルコシド結合をきる酵素である(α-グリコシダーゼおよびβ-グリコシダーゼは、それぞれα-グリコシド結合およびβ-グリコシド結合を切る酵素である)。

 グリコシド結合とは単糖アノマーヒドロキシ基-OH(単糖が環状構造を形成するときにできたヒドロキシ基のこと)の水素が他の化合物と置換してできる結合のことである。糖のアノマー性ヒドロキシ基は他のヒドロキシ基との位置関係からαとβの2種類に区別される。単糖が6員環(炭素5個と酸素1個からなる環。ブドウ糖のようなアルデヒド基をもつ六炭糖が環状構造を形成するときに形成される)を形成した場合、6位(糖の炭素にアルデヒド基の方から順に番号をつけて6番目の炭素のこと)のCH2OHと、環面に対してトランス(反対側の意味)配位のアノマー性ヒドロキシ基をα-アノマー、シス(同じ側の意味)配位のものをβ-アノマーとして区別する。α-アノマー性ヒドロキシ基およびβ-アノマー性ヒドロキシ基が関与した結合を、それぞれα-グリコシド結合およびβ-グリコシド結合とよぶ。

 グルコースとグルコースの間のグルコシド結合には、一方のグルコースのα-アノマー性ヒドロキシ基(1位の炭素についている)が、他方のグルコースの4位のヒドロキシ基と脱水結合する場合と、6位のヒドロキシ基と脱水結合する場合がある。それぞれ、α-1→4結合およびα-1→6結合という。

 α-アミラーゼは動物の膵、唾液、穀類の発芽種子および種々の微生物に存在する。種々の起源のα-アミラーゼはカルシウムイオンを含み、除去すると活性を失うが加えると活性となる。最適pH(ペーハー/ピーエイチ)(水素イオン濃度)は起源により異なり、動物由来はpH7.2付近、穀類、細菌類由来は5.9~6.0、ある種の糸状菌では3.4付近である。動物のα-アミラーゼは活性発現に塩素イオンが必要である。唾液中のアミラーゼは口腔(こうくう)内、および胃液が十分に混ざり強酸性になるまでの間は胃内でデンプンを加水分解してデキストリンを生成する。ヒトの唾液アミラーゼ(AMY1)と膵臓アミラーゼ(AMY2A)の遺伝子が確認されている。ヒトの血液中のアミラーゼは臨床的に膵炎などの診断に使われている。

 イソアミラーゼは脱分枝酵素とよばれ、α1→6-グルコシド結合を加水分解して、アミロペクチンやグリコーゲンの分枝を切る。

[徳久幸子]

『中村道徳監修、大西正健・坂野好幸・谷口肇編『アミラーゼ――生物工学へのアプローチ』(1986・学会出版センター)』『中村道徳・貝沼圭二編『生物化学実験法25 澱粉・関連糖質酵素実験法』(1989・学会出版センター)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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