翻訳|malt
発芽,発根させたオオムギを乾燥し,幼根を除去したもの。デンプンを糖化する酵素をはじめ,胚乳組織を分解する種々の酵素が発芽時に生産されることを利用し,糖化剤を兼ねたデンプン原料としてビール,ウィスキー,飴(あめ)あるいは麦芽酢の製造に用いられる。麦芽製造の歴史は古く,記録では前4000年ころの古代バビロニアにさかのぼることができる。当時はオオムギを堆積し,水をまき,発根したところで広げ,天日で乾燥した。この技術は前3000年には古代エジプトに伝えられ,オオムギの栽培に適する地中海気候地帯に広がり,中世にはドイツを中心として北ヨーロッパ諸国まで普及した。中世における製造技術は基本的に古代と変わらないが,発芽工程でかくはんし根芽の絡みを防ぐとともに酸素を供給し,温度を調節した。また麦芽の乾燥は火力に改良された。近代に入り,18世紀後半の産業革命に伴う各種の計器,機械類の発明により,製造技術に大幅な改良が加えられた。すなわちオオムギの浸漬(しんし)から発芽,乾燥にいたるまでの工程の温度,湿度,通風を最適条件に調節しうる浸漬槽,発芽床(発芽缶),乾燥床が開発され,製造所要日数も従来の1ヵ月前後から10日前後へと大幅に短縮された。現代でも製造の大型化,自動化が進んでいる。
水温が12℃前後の水にオオムギをひたし,ときどき換水して麦の水分含量が41~47%に達したところで発芽床に移す。発芽は14~18℃で行い,加湿空気で酸素を供給し,さらに機械的なかくはんも行う。発芽した芽の長さが穀粒の長さの1/2~3/4程度になったところで熱風乾燥する。濃色ビール用の麦芽は淡色ビール用より乾燥温度を高くして着色させる。またスコッチ・タイプのウィスキー製造用の麦芽は泥炭をたいて乾燥し,いぶし臭をつける。乾燥後幼根を除去する。発芽させたばかりの湿ったものを緑麦芽,これを加熱乾燥し貯蔵できるようにしたものを乾燥麦芽という。6世紀初頭の中国の農書《斉民要術》にコムギの麦芽〈糵(げつ)〉の製法があり,餳(とう)すなわち飴をつくっている。さらにこはく色の餳をうるにはオオムギの麦芽がよいとしている。
執筆者:菅間 誠之助
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