発芽(読み)ハツガ(その他表記)germination

デジタル大辞泉 「発芽」の意味・読み・例文・類語

はつ‐が【発芽】

[名](スル)芽を出すこと。植物の種子・胞子・花粉や樹枝の芽などが発育を始めること。
[類語]芽生え芽生える芽吹く芽ぐむ萌える萌え出る萌え立つ角ぐむ芽差す・芽を吹く・芽が出る芽を出す兆す芽出し芽立ち出芽発根萌芽実生みしょう

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精選版 日本国語大辞典 「発芽」の意味・読み・例文・類語

はつ‐が【発芽】

  1. 〘 名詞 〙
  2. めぐむこと。植物が芽を出すこと。休止していた芽(休眠芽)が生長を始めること。さらに花粉、胞子などからその世代の植物体の発生が始まることをもいう。種子の場合は種子中の幼芽や幼根の生長の開始をさすが、一般にはこのどちらか一方が種子外に現われ出たときをもって発芽としていることが多い。芽生え。出芽(しゅつが)。〔生物学語彙(1884)〕
  3. 転じて、感情、意識、構想などが生ずること。
    1. [初出の実例]「法律は其発芽を枯殺せんと企て」(出典:政党評判記(1890)〈利光鶴松〉二)
    2. 「小さい自我の発芽に触るやうな気がした」(出典:黴(1911)〈徳田秋声〉七三)
    3. [その他の文献]〔宋无‐蕃釐観感瓊花詩〕

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改訂新版 世界大百科事典 「発芽」の意味・わかりやすい解説

発芽 (はつが)
germination

植物において,芽または種子胚が生長を始めること,または胞子,花粉などからその世代の植物体の発生が始まること。種子の発芽は,肉眼的には幼根または幼芽が種皮を破って出現することとして認められるが,これは発芽過程の最終的な結果であり,吸水に始まり上記の形態的な変化に至るまでの生理・生化学的変化を含めて発芽という。発芽したものの全体に対する百分率発芽率percentage germinationという。

 種子が発芽する能力を保つ期間(種子の寿命)は植物の種類により大きく異なる。短命の例としてはヤナギカタバミなどのように寿命が1週間しかないものがあり,最も長命の例としては,大賀一郎が中国東北部の湖の底に埋没していた種子を見いだし,これが100%の発芽率を示したハスの例がある。この種子は250年以上前のものと推定されている。未発芽の種子でもひじょうにゆっくりとした代謝的あるいは非代謝的変化が起こっており,種子が寿命を失うのは胚の原形質タンパク質が変性するためと考えられている。

 種皮の性質は発芽に対し大きい影響をもつ。(1)半透性の種皮をもつもの(オオムギ,トチノキ)が多いが,(2)種皮が固く水(マメ科の多くのもの)や酸素(オナモミ属)を通さないもの,(3)水は通すが(したがってある点までは速やかに吸水が起こるが)固い種皮であるため発芽を阻むもの(アオビユ,サジオモダカ)もある。(2)は種皮の一部をやすりなどで傷つけたり種子を濃硫酸に短時間つければ,(3)は種皮を取り除けば発芽する。また(2),(3)の種皮の発芽の障害となる性質は後熟after-ripeningが進むと失われる。

発芽に必要な環境条件として,水,熱(適当な温度),酸素があげられる。温度が高いほど反応速度が大きく発芽が速いというものではなく,植物の種類によりそれぞれ発芽の最適温度があり,その植物の生育地域の気温と関連している。温度によって脂質の状態や酵素タンパク質の三次元構造が変化するが,発芽にはこれらの特定の状態が必要とされるためと考えられる。

 植物によっては(イネなど)嫌気条件下でも発芽できるが,この場合発芽に必要なATP生成は無気呼吸に依存している。一般に胚は種子の内部にあり,空気中で発芽する場合でも発芽の初期には酸素が胚へ到達しにくい。エンドウヒマワリトウモロコシ,コムギなどでも発芽の初期には呼吸の一部は無気呼吸で行われている。

 種子完熟後直ちに発芽に好適な条件を与えても発芽が起こらない場合が多い。このようなとき,種子が休眠状態にあるという。休眠は,種皮など胚をとりまく組織に原因がある場合と,胚自身に原因がある場合とがある。アブシジン酸その他の発芽抑制物質が果実,果皮,種皮または胚自身に含まれ,これにより発芽が抑制されている。低温処理(0~5℃)はそれ自体は発芽に適さないが,種子の休眠を解除する作用があり,低温処理を受けた種子を発芽に好適な条件へ移すと発芽する。したがって,休眠の解除と発芽自体とは区別して理解される。後熟とは,特別な処理をしなくても時間の経過とともに種子の中で進行する変化によって休眠が解除される現象をいう。

 種子には,発芽に光を必要とするもの(光発芽種子light-sensitive seed,positively photoblastic seed),光によって発芽が阻害されるもの(光阻害種子negatively photoblastic seed)および光の有無に無関係に発芽するもの(光不感種子light-indifferent seed)がある。光発芽の光受容分子はフィトクロムとされている。光発芽種子のなかには後熟が進んだり,休眠解除を行う低温処理が施されると暗所でも発芽するようになるものがあることから,光が休眠解除に働いているものと考えられる。

種子植物では,受精卵は分裂をくりかえして幼芽,幼根,子葉を形成したのち一時発生を停止して種子中に含まれた状態で母体から切り離される。種子形成時に栄養は母体から供給され,発芽の際に必要な物質はデンプン,タンパク質,脂肪などの形で胚乳や子葉などの貯蔵器官に蓄積される。発芽後,幼植物は,光を受け緑化が起こり光合成を行うようになるまでは,従属栄養的な代謝を行う。子葉や胚乳では貯蔵物質の加水分解が起こり,生じた可溶性の低分子は胚へ輸送され,胚ではこれらの物質を用いて胚の生長に必要な物質が合成される。この合成反応にエネルギーを供給する活発な呼吸が行われるため物質の収支バランスは負であり,発芽進行中の芽生えの乾量は減少し続ける。このため種子は大量の貯蔵物質を含み,エンドウやセイヨウアブラナの貯蔵器官である子葉は種子の乾量の90~95%を占めている。一方,根が窒素化合物を吸収することができるように生長するまで,窒素は貯蔵タンパク質を分解することによりまかなわれる。脂肪は,脂肪種子ではおもに胚乳または子葉に,トウモロコシなどのデンプン種子ではおもに胚盤に蓄えられ,発芽時には加水分解されて脂肪酸を生じ,その一部は脂質の合成に使われるが,残りの大部分はグリオキシソームによるβ酸化およびグリオキシル酸回路を経たのち糖へ変えられ,胚の生長に用いられる。

 種子を完熟を待たずに母体から切り離してまくと,それでも発芽することがワタなどで知られている(早熟発芽precocious germination)。この場合には,本来母体の上で行うはずの種子形成の過程が,まかれた未熟種子の体内で行われるので,切り離した時点では種子形成の過程がどの段階まで進んでいたかを知る有力な実験手段として用いられる。その結果,発芽時に必要なカルボキシペプチダーゼやイソシトレートリアーゼなどいくつかの酵素の遺伝情報は,種子形成過程の中ほどですでに転写されるが,その翻訳はアブシジン酸により阻害され,次いで種子が完熟すると脱水により阻害されることが明らかにされた。

種子の水分含量は生長しつつある組織に比べてきわめて低く,トウゴマの種子,イネの胚の幼芽の部分ではそれぞれ6.5%,6.2%であるが,芽生えでは92.7%,91.9%となる。種子や胞子などの発芽の最初の過程は吸水に始まる。種子の表面はクチクラなどでおおわれていることが多い。水は表面全体から吸われるのではなく,おもに胚の付近または種子がもと胎座についていた部分(へそhilum)から入っていく。発芽過程の最初の段階,すなわち胚が細胞の増殖を伴って生長を始めるより前の発芽の始動期は吸水期imbibition periodと呼ばれ,多くの場合種子胚の吸水は次の三つの時期に分けられる。(1)A期 種子胚のコロイドによる急速な物理的吸水ののち,(2)B期 いったん吸水が停止し,(3)C期 細胞の生長が始まると緩やかな速度の吸水が再び始まる。B期の長さは植物の種類により異なる。死んだ種子または休眠種子でもA期の吸水は起こる。

 また,代謝的な面から発芽過程は次の四つの時期に区分される。(1)種子中にあらかじめ存在していた不活性な状態の高分子物質あるいは細胞小器官の活性化の時期(A期の後半から始まる),(2)呼吸系の活性化によるATPの生産が始まった時期(これらの変化はB期中も引き続き起こる),(3)吸水の進行および呼吸が定常状態を示す時期(ほぼC期に相当し,既存の代謝系の活性はすべて回復し,この間に次の時期の生長に必要な準備が行われる),(4)吸水期が終わり胚は新たな生長期に入る時期。ここでは細胞分裂とこれに次ぐ細胞の生長が急速に進行し,幼根,幼芽が伸長する。呼吸は著しく増大する。

 チトクロム酸化酵素,ある種のプロテアーゼホスファターゼなどは種子中に不活性な状態で存在し,吸水時に直ちに活性化される。種子形成時と発芽時には異なる種類の酵素が必要とされるが,一部の酵素は両者に共通で,種子形成時に作られたこの種の酵素が完熟種子中に不活性な状態でとどまり,発芽時に活性化されるものと考えられる。これに対し,吸水期にはタンパク質の新たな合成も始まる。吸水期に翻訳されるmRNAは種子形成過程で作られるが,その時点では翻訳されずタンパク質の殻で包まれた情報粒子informosomeの形で種子中にとどまるもの(long-lived mRNAと呼ばれる)と考えられている。種子中にはあらかじめリボソームも存在しており,吸水が始まると情報粒子のタンパク質が取り除かれlong-lived mRNAが出てくると,これと結合して直ちにポリソームを形成しタンパク質の合成が開始される(図)。吸水前のコムギ胚をすりつぶしたものにATPを加え,12分間30℃で保持すると,タンパク質合成能をもつポリソームが形成される。ポリソーム形成にはATPが必要であり,事実,吸水開始後30分までにATPの合成が始まっている。このようなことが初めて明らかにされた時代(1965)には,吸水の初期には新たなmRNAは合成される必要はないと考えられていたが,その後の研究で,吸水の初期にもmRNAの合成は行われ,これは発芽のそれより後の時期に翻訳されることが明らかにされた。発芽の時期によって必要なタンパク質の種類が異なり,これらをコードしているmRNAの合成される時期が前へ一つずれているわけである。

 吸水初期の酵素の活性化または合成によって加水分解酵素の活性が高まると,貯蔵物質の高分子が加水分解され,糖など細胞の浸透圧を高める物質が増加し,これにより新たな吸水が始まる。これがC期の吸水であると考えられる。胚の幼根や幼芽の伸長が始まる(4)期の開始に先だって,リボソームRNAやDNAの活発な合成が始まる。

 休眠中の種子をジベレリン処理して発芽させた場合,肉眼的に発芽が認められるよりはるかに前,すなわち吸水開始10時間後にクロマチンの鋳型活性の増大が認められる。また,発芽の過程でジベレリンが出現し,これが酵素合成を誘導する例が知られる。オオムギの発芽過程におけるジベレリンによるα-アミラーゼの誘導はよく研究され,高等植物におけるホルモンによる酵素誘導の代表的な例とされる。
種子
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「発芽」の意味・わかりやすい解説

発芽
はつが

種子の胚(はい)が成長を再開すること、または花粉や胞子が芽を出すことをいう。

 種子の発芽は、現象的には、幼根が種皮を突き破って出るという形態的変化をもって認めることができるが、種子の内部では、それ以前に、すでにさまざまな生理的・生化学的変化がおこっている。したがって、種子の発芽は、種子の吸水に始まり、細胞代謝や生合成の複雑な生化学反応の活性化を伴って、最終的には胚(幼根)の成長再開に至る一連のプロセス(過程)からなっているといえる。胚の成長は、普通、幼根から始まるが、イネの種子のように、水中で発芽させると子葉鞘(しようしょう)(幼芽)から先に成長を始めることもある。

[勝見允行]

種子発芽の条件

普通、種子は熟成しても、すぐには発芽しない(休眠)。したがって、発芽をおこすためには、低温、光などの特別な環境刺激や阻害物質の消失が必要とされる場合もあるし、種皮などの種子の構造や性質によっては、胚の成長に必要な水分や酸素の供給を十分に行わなければならない場合もある。また、種子には、植物の種類によって、それぞれ発芽に適した温度範囲がある。

[勝見允行]

発芽のプロセス

種子の含水量は10%に満たないほどに低いため、初めに吸水がおこり、これによって、種子組織の代謝が始動される。この吸水は、種子を構成するコロイド質による物理的な現象である。吸水開始とともに呼吸が増加し、胚成長に使われるエネルギーが供給される。他方、デンプン、脂肪、タンパク質などの貯蔵養分は、それぞれ、ブドウ糖、脂肪酸、アミノ酸にまで低分子化され、呼吸の基質や新しい細胞の構築材料に使われる。貯蔵養分の分解には加水分解酵素が作用するが、これらのあるものは、すでに種子中に存在していて、吸水によって活性化されるものや、まったく新しく誘導(合成)されるものもある。しかし、多くの酵素は、実際に胚の成長が始まる前に誘導される。この際、やはり、すでに存在していたmRNA(メッセンジャーRNA)に基づいてできる酵素や、新しくDNAの遺伝情報を転写したmRNAに基づいてできる酵素もある。酵素の誘導には、オオムギのアリューロン層におけるα‐アミラーゼのように、植物ホルモンの調節を受ける場合がある。

[勝見允行]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「発芽」の意味・わかりやすい解説

発芽
はつが
germination

植物の種子,胞子,花粉,地下生殖器官および枝にある芽など休眠状態にあるものが適当な条件を得て発育を始める現象。発芽を促す外的な条件としては,温度,水,酸素,光などがおもなものであり,同時に,発芽すべきものがこれらの外的条件を受入れ,生理的に活発な状態になれるようになっていることが必要である。種子では,幼芽,子葉,幼根が一応形成され,発芽に際して必要な物質が,炭水化物,脂肪,蛋白質などの形で胚乳や子葉中に貯蔵されており,シダなどの胞子では,吸水によって胞子の殻が破れたとき,ただちに発芽が開始できる程度に熟していることが不可欠なことである。種子の発芽に関しては,種子を休眠させずにすぐまいても発芽するものもあるが,一定期間の休眠を必要とするものもある。まかれた種子のうち発芽したものの数の,まいた全数に対する割合を発芽率といい,これで発芽能力を推定するが,発芽能力は遺伝子型,栄養状態,休眠時間の長さなどの内的条件や種々の外的条件によって影響を受けるので,これを正確に表現するのはむずかしい。

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普及版 字通 「発芽」の読み・字形・画数・意味

【発芽】はつが

芽が出る。

字通「発」の項目を見る

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栄養・生化学辞典 「発芽」の解説

発芽

 植物の種子が適度な温度と水分を得て芽を出すこと.

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