アミラーゼ(読み)あみらーぜ(英語表記)amylase

翻訳|amylase

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アミラーゼ」の意味・わかりやすい解説

アミラーゼ
あみらーぜ
amylase

デンプングリコーゲンなど、グルコースを構成糖とする多糖(グルカン)を加水分解する酵素総称。作用様式からα(アルファ)-アミラーゼ、β(ベータ)-アミラーゼ、グルコアミラーゼの3種に分類される。デンプンを唾液(だえき)とともに温めておくとヨードデンプン反応を示さなくなるのは、唾液中のアミラーゼ(プチアリン)の働きによる。唾液1リットル中には約0.4グラムのアミラーゼが含まれている。唾液や膵液(すいえき)中のアミラーゼはデンプンを加水分解してマルトースを生ずるので、消化作用に欠くことができない。アミラーゼは高等動物ばかりでなく、高等植物、カビ細菌など自然界に広く分布している。コウジカビは培養液に多量のアミラーゼを分泌する。高峰譲吉はこれに着目してタカジアスターゼとよばれる消化剤をつくった。アミラーゼの日本薬局方名はジアスターゼである。これはおもに麦芽からつくられる。また、ある種のカビのアミラーゼは、デンプンをほとんど完全に加水分解してブドウ糖(グルコース)にしてしまうので、ブドウ糖の製造に利用されている。日本ではほとんどすべてこの方法によってブドウ糖が製造されている。

 アミラーゼはもっとも古くから研究されてきた酵素の一つで、1811年にはコムギの抽出液がデンプンを分解するという報告がされており、1830年代に唾液や麦芽のアミラーゼが発見された。アミラーゼは他の酵素と同様にタンパク質であるが、膵液中にせよ、カビの培養液中にせよ、他の種類の多量のタンパク質と混じって存在しているので、アミラーゼだけを純粋に取り出す努力が長い間続けられた。1940年代から1950年代にかけてアセトンによる分別沈殿などが成功し、各種のアミラーゼを結晶として取り出すことができるようになった。

 アミラーゼの結晶は小さく、肉眼では絹糸を粉にしたようにしか見えないが、顕微鏡で見ると、オオムギ麦芽からのβ-アミラーゼは四角形、ダイズのβ-アミラーゼは六方晶系と整った美しい結晶である。精製されたアミラーゼのタンパク質分子としての性質は詳しく調べられている。たとえば、唾液のアミラーゼは分子量が5万の球状の分子で、カルシウムイオンを含んでいる。このイオンを取り除くと、アミラーゼ活性が著しく弱くなってしまう。

[村松 喬]

α-アミラーゼ

デンプンやグリコーゲンなどのグルコース鎖を内側から不規則に切断する。したがって、反応の初期から多糖は急速に低分子化し、ヨードデンプン反応を示さなくなる。グルコース鎖は反応が進むにつれて次々と短くなり、反応終期にはマルトースが主成分となる。この酵素はグルコースのα-1・4-結合にだけ作用する。デンプン中のアミロースはα-1・4-結合しかもたないので、α-アミラーゼによって完全に分解される。しかし、デンプン中のアミロペクチンやグリコーゲンにはα-1・6-結合も含まれているので、α-アミラーゼによって分解されない部分が残る。これを限界デキストリンという。唾液や膵液のアミラーゼは、α-アミラーゼの典型である。なお、α-アミラーゼは麦芽、カビ、細菌などにも存在する。

[村松 喬]

β-アミラーゼ

デンプンやグリコーゲンなどのグルコース鎖を端から順番に加水分解してマルトースを生ずる酵素である。反応がかなり進んでも糖の長い鎖が残るので、ヨードデンプン反応が急速に消失することはない。α-アミラーゼと同様、α-1・6-結合には作用しない。サツマイモ、コムギ、ダイズ、麦芽などの高等植物に存在する。

[村松 喬]

グルコアミラーゼ

アミログルコシダーゼともいう。デンプンやグリコーゲンなどのグルコース鎖を端から順番に加水分解してグルコースを遊離していく酵素である。α-1・6-結合にも作用する場合が多い。各種の糸状菌が培養液中に分泌する。

[村松 喬]

食品

アミラーゼは動物、植物、微生物に広く分布している酵素で、食品製造における利用も盛んである。食品製造に利用される酵素の75%以上はアミラーゼである。α-アミラーゼは液化アミラーゼともいい、デンプンに作用してデキストリン、オリゴ糖を生成する酵素で、デンプン分解の主役をなすものである。唾液(だえき)、膵液(すいえき)、麦芽(ばくが)、糸状菌などに存在し、唾液中のものをプチアリン、膵液中のものをアミロプシンという。糸状菌のアミラーゼは食品工業において用いられる。β-アミラーゼはデンプン、グリコーゲン、デキストリンなどに作用して、α-1・4-結合のみを分解し、グルコース2個からなるマルトース(麦芽糖)を生成する酵素である。オオムギ、コムギ、ダイズ、サツマイモなどに多く存在し、糖化酵素ともよばれる。グルコアミラーゼはγ(ガンマ)-アミラーゼともいわれるが、β-アミラーゼと異なりグルコースを生成すること、糸状菌に多いことが特徴で、ブドウ糖製造に利用されている。

[宮崎基嘉]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アミラーゼ」の意味・わかりやすい解説

アミラーゼ
amylase

デンプンやグリコーゲンなど,グルコースが連鎖した多糖類のα (1→4) グルコシド結合を切る酵素の総称。αとβアミラーゼに大別されるが,基質となるグルコシド結合のα,βと対応するわけではない。 (1) α-アミラーゼ デンプンなどのα (1→4) 結合をランダムに切断して,グルコース2個の結合物であるマルトース (麦芽糖) とグルコースとの混合物とする。基質多糖類はランダムに分解されて鎖が短くなるので,溶液粘度は急速に低下する。唾液,膵液,麦芽,糸状菌,細菌などから抽出結晶化されている。発酵工業,糊抜剤,水飴製造などに利用される。 (2) β-アミラーゼ 基質を非還元末端から2個ずつマルトースとして切断する。麦芽などをはじめ広く高等植物に分布し,細菌,糸状菌などにも存在が推定されている。 (3) γ-アミラーゼ 主として糸状菌中に存在。デンプンを個々のグルコースへと分解する。グルコース製造工業で利用されるが,作用形式からはα-アミラーゼに属し,いまはγの呼称はほとんど使われない。

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