単糖(読み)たんとう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「単糖」の意味・わかりやすい解説

単糖
たんとう

糖類のうちそれ以上加水分解できない糖の総称で、単糖類ともいう。多くの単糖は生理的に重要であり、おもなものに、グルコースフルクトースマンノースガラクトース、リボースなどがある。一般に甘味をもつ無色結晶で、水に溶けるが、エタノールエチルアルコール)には溶けにくく、エーテルには溶けない。遊離形または少糖類、多糖類、配糖体などの構成糖として生物界に広く存在するが、遊離形での存在は少ない。天然物から抽出するか、少糖類、多糖類などを加水分解して得るが、化学的に合成することもできる。最低2個のヒドロキシ基とこれに隣接するカルボニル基=Oをもつ。その多くはCn(H2O)mという一般式で表すことができ、C(炭素)の数によってトリオース(三炭糖)、ペントース(五炭糖)、ヘキソース(六炭糖)などとよばれる。またカルボニル炭素がアルデヒド基-COHにあるかケトン基=Oにあるかによって、アルドースまたはケトースとよぶ。不整炭素原子をもち、多くの立体異性体があるので旋光性を示し、D、L二系列に分けられる。もっとも簡単なアルドースであるグリセリンアルデヒドについて、右旋性(+)のものをD型とし、これより誘導される糖をD系列とし、その対称体をL系列とする。カルボニル基は通常遊離しておらず、五角または六角の環状構造をつくっており、それぞれフラノース、ピラノースとよばれる。環形成の際にカルボニル炭素に生ずるヒドロキシ基に関してα(アルファ)、β(ベータ)の異性体が生ずる。D系列ではより大きな右旋性をもつものをα型、他をβ型とし、L系列ではより大きな左旋性をもつものをα型、他をβ型とする。結晶の状態ではα、βのいずれかの型をとるが、溶液中では両者の間に平衡が成立し、時間とともに旋光度が変化し最後に一定値に達する。この現象を変旋光という。しかし、カルボニル炭素に生ずるヒドロキシ基がグリコシド結合によって他の単糖、アルコール、フェノール性物質、リン酸などと結合している場合は、α、βのいずれかの形をとる。グリコシダーゼにはα型に作用するものとβ型に作用するものとがあり、厳密に区別される。単糖類はカルボニル基をもつので、アンモニア性銀液やフェーリング液を還元したり、フェニルヒドラジンなどと反応してオサゾンを生成する。また、アルコール基をもつため酸とエステルをつくる。溶液中の変化については、酸濃度の高い酸性溶液中では脱水がおこり、アルカリ性溶液中ではエピマー化(反転)がおこる。単糖類を還元すると糖アルコールに変わる。酸化に対してアルドースとケトースでは異なった反応を示す。アルドースは温和な酸化によってアルドン酸となり、さらにラクトンに変わるが、強い酸化ではジカルボン酸が生ずる。ケトースは弱い酸化剤に対して安定であるが、強い酸化剤では炭素鎖の切断を伴ってジカルボン酸が生ずる。

[飯島道子]

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改訂新版 世界大百科事典 「単糖」の意味・わかりやすい解説

単糖 (たんとう)
monosaccharide

アルデヒド基もしくはケトン基をもつ多価アルコールで,炭水化物の構成単位となっている化合物の総称。アルデヒド基を含むものをアルドースaldose,ケトン基を含むものをケトースketoseと呼ぶ。日常生活で最もよく出会う単糖はD-グルコースD-glucose(ブドウ糖)でC6H12O6の分子式をもつ。この炭素原子は連鎖状に配列し,最も外側の一つがアルデヒド基となっている。それ以外の炭素原子はすべて水酸基を結合している。単糖の重要な特徴の一つは立体異性体が多いことである。図に各種単糖の構造を示したが,これはフィッシャー投影図といわれるものである(立体構造式)。立体的に考えれば,炭素原子に結合する水酸基や水素原子は紙面から上へ,そして炭素の鎖は紙面から下へ折れ曲がっているものをこのように描くと約束されている。D-グルコース(図(1))のアルデヒド基の炭素原子を1として,順次炭素原子に番号を付していくと,2,3,4,5の炭素原子に結合する水酸基がこの投影図で右側にくるか左側にくるかによってそれぞれ異なる糖になる。すなわちD-グルコースの立体異性体は24=16通りある。このうちD-マンノースD-mannose(図(2)),D-ガラクトースD-galactose(図(5))が特に重要である。また,ケトン基をもつ糖としてD-フルクトースD-fructose(果糖,図(7))が知られている。糖の異性体のうちには,水酸基と水素原子の配置が鏡像の関係にある,すなわちまったく逆の二つの糖の組が現れる。これらの二つは同じ名前で呼ばれるが,その頭にD-とL-を付けて区別する(たとえばD-グルコースとL-グルコース)。そして,5番目の炭素原子に結合する水酸基が投影図では右側にくるものをD-型と呼ぶと約束されている。天然に見いだされる糖はほとんどすべてがD-型のものである。ただし,フコースfucose(6-デオキシガラクトース)はL-型が天然のものである。

 単糖は含まれる炭素原子の数によって,二炭糖(ジオース),三炭糖(トリオース),四炭糖(テトロース),五炭糖(ペントース),六炭糖(ヘキソース),七炭糖(ヘプトース)というように分けられる。グルコースは最も代表的な六炭糖である。六炭糖としてはそのほかに,上記のD-グルコースの異性体やD-フルクトースがよく知られている。天然に存在する単糖としては,六炭糖のほかに五炭糖も重要である。五炭糖には,核酸の構成成分であるD-リボースやD-2-デオキシリボースが含まれる。以上述べた単糖は官能基としてはアルデヒド基もしくはケトン基のみをもつが,このほかにカルボキシル基をももつ単糖があり,これはウロン酸と呼ばれる。またアミノ基をもつ糖がありアミノ糖と名付けられている。アミノ糖の代表例はD-グルコサミン(図(4))とD-ガラクトサミンであり,これらはアミノ基がアセチル化された形で多くの天然物質中に存在している。さらに九炭糖(ノノース)で多くの官能基をもつシアル酸という物質も知られている。

 単糖は白い粉末であり,水によく溶ける。単糖を相互に分別したり,同定するためには揮発性の誘導体に変えてのガスクロマトグラフィー,あるいはそのままでのろ紙クロマトグラフィーが用いられている。ろ紙クロマトグラフィーにおいては単糖混合物の水溶液を50cm以上のろ紙につけ,ブチルアルコール:ピリジン:水(6:4:3)などの有機溶媒で展開し,還元性を利用した反応で糖を検出すればよい。D-グルコースとD-ガラクトースのように,1個の炭素原子に結合する水酸基の位置が異なるだけの異性体であっても良好に分離できる。
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化学辞典 第2版 「単糖」の解説

単糖
タントウ
monosaccharide

グリコースともいう.炭水化物または糖類の基本単位となっている一群の化合物をいう.その多くは一般式CnH2nOnをもち,炭素数が3,4,5,6,7,8,…であるものをそれぞれトリオーステトロースペントースヘキソースヘプトース,オクトース,…という.構造的には,アルデヒド基またはケトン基をもつ鎖式ポリヒドロキシ化合物であり,前者をアルドース,後者をケトースといい,語尾に-ose,-uloseをつけて命名する.特殊な同族体として,炭素骨格が直鎖状でないもの(枝分れ糖),ヒドロキシ基の一部がH原子やほかの基に置換されたもの(デオキシ糖アミノ糖など)がある.一般に,n ≧ 3のアルドース,n ≧ 4のケトースは不斉炭素原子をもち,その数に応じて立体異性体が多数あるが,天然に見いだされるのはその一部である.天然産のものはペントースとヘキソースが多い.これらは遊離の形やグリコシド結合したオリゴ糖や多糖として存在するほか,核酸,ヌクレオチド,複合糖質などの構成成分となる.単糖は,天然物からの抽出,各種グリコシドの加水分解,同族体の異性化,低級同族体からの組み上げ(キリアニ合成など),高級同族体からの組み下げ(ウォール分解,過ヨウ素酸酸化など)法によって合成される.一般に結晶性の物質であり,水に易溶,アルコール類に難溶.多少とも甘味を示す.普通は,分子内でヘミアセタール化した環状の形で存在する.とくにピラノース形がもっとも安定であり,結晶状の単糖はそのα-もしくはβ-アノマーに事実上限られる.水溶液中ではこれらのほかに,フラノース形の両アノマー,遊離のカルボニル基をもつ開環形もわずかに存在し,それゆえこれらが平衡混合物となるまで変旋光がみられる.単糖はカルボニル基,ヒドロキシ基に起因するさまざまな反応性を示す.単糖の機能としては,エネルギー源としてグルコースに代表されるATPやNADPHの供給,リボース,そのほかにみられる各種機能物質の構成があげられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「単糖」の解説

単糖

 加水分解によってそれ以上単純な糖にならない基本単位としての糖.グルコースはその例で,天然に多く存在する.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の単糖の言及

【多糖】より

単糖が重合して生ずる高分子物質で,生物界に広く分布している。広義には単糖が2分子以上結合したものを含めることがあるが,狭義には20分子程度以上のものをいう。…

【炭水化物】より

…三大栄養素の一つ(炭水化物の栄養的側面については〈栄養〉の項目を参照)。単糖すなわちアルデヒド基かケトン基をもつ多価アルコールを構成成分とする化合物と定義される。その多くは(CH2O)nで示される分子式をもち,あたかも炭素に水が結合しているかのような印象を与えるので炭水化物という名称が生じ,かつては含水炭素とも呼ばれた。…

【糖】より

…もともとは天然の甘味成分に対して与えられた漠然たる用語であるため,場合により多少違った意味で用いられる。(1)もっとも厳密には糖類saccharideのうち水溶性で甘味をもつものの総称で,単糖と多くの少糖を含める。(2)糖類一般,つまり単糖,少糖,多糖を含める。…

※「単糖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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