改訂新版 世界大百科事典 「δ関数」の意味・わかりやすい解説
δ関数 (デルタかんすう)
δ function
1920年代に物理学者P.A.M.ディラックは,次のような関数δ(x)を導入して形式的な計算を行い,量子力学の研究に有効に利用した。すなわち,実数xの関数δ(x)とは,x≠0のときδ(x)=0,x=0のときδ(0)=∞で,なるものとし,(-∞,∞)で連続な任意の関数φ(x)に対して,あるいは,より一般に任意の実数cについて,が成り立つとした。このδ(x)をディラックのδ関数,または単にδ関数と呼ぶ。このような関数は数学的にふつうの意味の関数としては認められないものであるが,1940年代後半に,フランスの数学者シュバルツL.Schwartz(1915-2002)によって創始された超関数の理論により,厳密な数学的意味づけが与えられた。それによると,(-∞,∞)で無限回微分可能で,ある有界集合の外ではφ(x)≡0となる関数φの全体をとするとき,δ関数は任意のφ∈に対してTδ(φ)=φ(0)で定義される汎関数Tδである。これは直観的にはx=0における質量1の質点と考えることができるが,また次のような関数列{fn},あるいは{gn}の,ある意味での極限としても与えられる。
これらの関数はすべてを満たしながら,図に示すように,nが大きくなるに従ってその重みがx=0の近くへしだいに集中していくので,上に述べた直観的解釈に合致する。なお,ディラックは次のヘビサイド関数,
Y(x)=1(x≧0),Y(x)=0(x<0)
の導関数がδ(x)であるとし,さらにδ(x)の導関数δ′(x),δ″(x),……をも扱ったが,これらも超関数の理論によってすべて数学的に厳密に意味づけられた。
→超関数
執筆者:伊藤 清三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報