ディラックのデルタ関数は物理学では有効に用いられてきたが、数学的には関数の定義に当てはまらない。そこでシュワルツはこれらを含むように、しかも微分演算やフーリエ解析が自由にできるように関数概念を拡張した。シュワルツはそれをdistributionsと名づけたが、日本では超関数とよんでいる。応用上は多変数の関数を考えることが多いが、一変数の場合にその考え方を紹介しておこう。実変数xの、無限回連続微分可能で、|x|が大きいとき恒等的に0になる関数の集合をで表す。いま、f(x)を連続関数とすると、
(x)∈
に対し、
は上の線形汎関数(はんかんすう)になり、次の意味で連続になる。任意の有限区間Iに対し、Iの外で0になる
(x)∈
に対し
一般に、上の線形汎関数T(
)で、任意の有限区間Iを与えると、定数M、自然数pが決まり、Iの外で0となる任意の関数
(x)∈
に対し、
となるとき、Tを超関数という。たとえば、
δ()=
(0)
として定義されるδも超関数(ディラックのデルタ関数)である。超関数S、Tが等しい(S=T)とは、任意の(x)∈
に対し、S(
)=T(
)となることとする。超関数Tの微分は、
(x)∈
ならば、その導関数
′(x)∈
を用い、-T(
′)を
の汎関数と考えると、超関数T′が、
T′()=-T(
′)
として決まる。このT′をTの(超関数としての)導関数という。これが自然な定義であることは、f(x)が微分可能ならば、
が部分積分より、ゆえに(Tf)′=Tf'となることよりわかる。
ヘビサイド関数
H(x)=0(x<0),
H(x)=1(x>0)
を超関数と考えて微分すると、
より、(TH)′=δで、これも応用上重要な関係である。超関数Tに微分が定義できるから、超関数の意味で微分方程式を考えることができる。とくに、
P(D)T=a0(x)T(n)+a1(x)T(n-1)+
……+an(x)T=δ
を満足する超関数Tを基本解という。基本解が求まると、任意の右辺に対する解が求まるので、微分方程式では基本解を求めることが問題になる。
[洲之内治男]
フーリエ変換の定義できる自然な関数として、急減少関数(無限回連続微分可能、任意の自然数m、nに対し、|x|→∞のとき、|xm(n)(x)|→0となるもの)がある。その集合を
で表すと、
⊂
となる。
(x)∈
のフーリエ変換を
で定義する。すると、(ξ)∈
となり、逆変換として
が成り立つ。上の連続な線形汎関数として決まる超関数Tを緩やかな超関数という。これにも微分が前と同様に定義できるが、さらに、フーリエ変換を、
(x)∈
を用いて、
(
)=T(
)
として決まる緩やかな超関数で定義する。
デルタ関数δのフーリエ変換は
などがいえる。
[洲之内治男]
無限に長い針金の熱伝導は、時刻t、場所xにおける温度をu(t,x)とすると、熱方程式
で与えられる。u(t,x)を、tをパラメーター、xの関数として(超関数として)フーリエ変換をとると、
となるから、
これはξをパラメーターと考えると、tの常微分方程式、よって解は
となる。よって、これのフーリエ逆変換が求まれば、それが求める解である。
[洲之内治男]
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…モスクワ大学に学び,1943年からモスクワ大学教授。ノルム環の理論の創始者であり,また超関数の理論の創始者の一人でもある。1940年に発表した連続群の表現論に関する研究は高く評価されている。…
※「超関数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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[1864~1915]ドイツの精神医学者。クレペリンのもとで研究に従事。1906年、記憶障害に始まって認知機能が急速に低下し、発症から約10年で死亡に至った50代女性患者の症例を報告。クレペリンによっ...
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