翻訳|distribution
Ωをm次元ユークリッド空間の中の領域とし,m個の負でない整数の組p=(p1,……,pm)に対して|p|=p1+……+pm,とする。KをΩの中の任意のコンパクト集合とし,Ω上で無限回微分可能な複素数値関数で,あるKの外では0になるもの全体をkと書き,とする。関数列{φn}⊂が0に近づくとは,{φn}があるKに対するkに含まれ,任意の偏微分演算Dpに対して{Dpφn}がΩ上で一様に0に収束すると定義し,そのときφn→0と書く。関数空間上の複素数値線形汎関数Tが連続性,を満たすとき,TをΩ上の超関数という。
1945年,シュワルツL.Schwartzは〈部分積分を通しての関数概念の拡張〉であるところの超関数の理論を創始した。この理論によって,その後,フーリエ解析や偏微分方程式の理論は著しい発展を見せた。
(1)fをΩ上の連続関数としてと定義したもの,(2)μをΩ上の測度としてと定義したもの,(3)1点x°∈Ωを固定してと定義したものはいずれも超関数である。とくに(3)は点x°におけるディラックのδ関数と呼ばれる。
上の(1)において,もしも∂f(x)/∂x1が存在して連続ならば,部分積分からわかるようにとなる。一般に,任意の超関数Tと偏微分演算Dpに対してをφ∈の線形汎関数と考えると,超関数の条件を満たすので,によって超関数Tの偏導超関数DpTを定義する。これにより,任意の超関数は無限回偏微分可能である。例えばTを前述の(3)におけるTx°とすると
超関数T,Sの和T+SおよびTの定数α倍は,それぞれ,任意のφ∈に対して,(T+S)(φ)=T(φ)+S(φ)および(αT)(φ)=α・T(φ)によって定義する。また,Ωで無限回微分可能な関数ψと超関数Tとの積は(ψT)(φ)=T(ψφ)(φ∈)により定義する。したがってとくに,Ωで連続な関数fに対してはψTf=Tψfとなる。以上のことを使うと無限回微分可能な関数ap(x)を係数とする偏微分作用素,が定義される。このAに対して,で定義される偏微分作用素A′をAの随伴偏微分作用素という。このとき任意の超関数Tに対して(AT)(φ)=T(A′φ)なる関係がある。これは,Tが無限回微分可能な関数fによってT=Tf(前述の例(1))と表されている場合は,ふつうの部分積分によって得られる式,
にほかならない。
もっとも著しい結果は,楕円型偏微分方程式に関するものであろう。2階偏微分作用素,
は,各点x∈Ωにおいて二次形式,が正の定値(すなわち,である限り)であるとき,Aは楕円型であるという。例えばラプラシアンΔ=∂2/∂x12+……+∂2/∂xm2は楕円型偏微分作用素である。上記の楕円型偏微分作用素Aにおいて,各係数aij(x),bi(x),c(x)が無限回微分可能であり,また,f(x)を無限回微分可能な既知関数とするとき,超関数の理論によれば偏微分方程式AT=fを満たす超関数Tがあれば(すなわち, 任意のφ∈に対してが成立すれば),無限回微分可能な関数uで偏微分方程式Au=fを満たすものが存在してT=Tuとなる(この事実はワイル=シュワルツの補題と呼ばれる)。簡略ないい方をすれば,楕円型偏微分方程式AT=fの超関数解Tは,実はふつうの意味のAu=fの解uになるのである。超関数は関数空間の上の連続線形汎関数として定義されているので,現代の関数解析学の手法を用いることにより,超関数解を求めることは,最初からふつうの関数の解を求めるよりも容易なことが多いが,その超関数解がワイル=シュワルツの補題によりふつうの解になっているのである。以上のことは放物型偏微分方程式についても成立する。すなわち,実数tの区間Iと領域Ω⊂Rmとの直積において∂T/∂t=AT+f(A,fは上に述べたとおり)を満たす超関数Tがあれば,I×Ωにおける偏微分方程式∂u/∂t=Au+fのふつうの解uが存在してT=Tuとなる。これに対し,双曲型偏微分方程式についてはワイル=シュワルツの補題は成立しない。例えば,f(x),g(y)をそれぞれ実数x,yのみの関数とするとき,二次元領域における方程式∂2T/∂x∂y=0は超関数解をもつが,ここでf,gは不連続関数でもよいのである。
執筆者:伊藤 清三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ディラックのデルタ関数は物理学では有効に用いられてきたが、数学的には関数の定義に当てはまらない。そこでシュワルツはこれらを含むように、しかも微分演算やフーリエ解析が自由にできるように関数概念を拡張した。シュワルツはそれをdistributionsと名づけたが、日本では超関数とよんでいる。応用上は多変数の関数を考えることが多いが、一変数の場合にその考え方を紹介しておこう。実変数xの、無限回連続微分可能で、|x|が大きいとき恒等的に0になる関数の集合をで表す。いま、f(x)を連続関数とすると、(x)∈に対し、
は上の線形汎関数(はんかんすう)になり、次の意味で連続になる。任意の有限区間Iに対し、Iの外で0になる(x)∈に対し
一般に、上の線形汎関数T()で、任意の有限区間Iを与えると、定数M、自然数pが決まり、Iの外で0となる任意の関数(x)∈に対し、
となるとき、Tを超関数という。たとえば、
δ()=(0)
として定義されるδも超関数(ディラックのデルタ関数)である。超関数S、Tが等しい(S=T)とは、任意の(x)∈に対し、S()=T()となることとする。超関数Tの微分は、(x)∈ならば、その導関数′(x)∈を用い、-T(′)をの汎関数と考えると、超関数T′が、
T′()=-T(′)
として決まる。このT′をTの(超関数としての)導関数という。これが自然な定義であることは、f(x)が微分可能ならば、
が部分積分より、ゆえに(Tf)′=Tf'となることよりわかる。
ヘビサイド関数
H(x)=0(x<0),
H(x)=1(x>0)
を超関数と考えて微分すると、
より、(TH)′=δで、これも応用上重要な関係である。超関数Tに微分が定義できるから、超関数の意味で微分方程式を考えることができる。とくに、
P(D)T=a0(x)T(n)+a1(x)T(n-1)+
……+an(x)T=δ
を満足する超関数Tを基本解という。基本解が求まると、任意の右辺に対する解が求まるので、微分方程式では基本解を求めることが問題になる。
[洲之内治男]
フーリエ変換の定義できる自然な関数として、急減少関数(無限回連続微分可能、任意の自然数m、nに対し、|x|→∞のとき、|xm(n)(x)|→0となるもの)がある。その集合をで表すと、⊂となる。(x)∈のフーリエ変換を
で定義する。すると、(ξ)∈となり、逆変換として
が成り立つ。上の連続な線形汎関数として決まる超関数Tを緩やかな超関数という。これにも微分が前と同様に定義できるが、さらに、フーリエ変換を、(x)∈を用いて、
()=T()
として決まる緩やかな超関数で定義する。
デルタ関数δのフーリエ変換は
などがいえる。
[洲之内治男]
無限に長い針金の熱伝導は、時刻t、場所xにおける温度をu(t,x)とすると、熱方程式
で与えられる。u(t,x)を、tをパラメーター、xの関数として(超関数として)フーリエ変換をとると、
となるから、
これはξをパラメーターと考えると、tの常微分方程式、よって解は
となる。よって、これのフーリエ逆変換が求まれば、それが求める解である。
[洲之内治男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…モスクワ大学に学び,1943年からモスクワ大学教授。ノルム環の理論の創始者であり,また超関数の理論の創始者の一人でもある。1940年に発表した連続群の表現論に関する研究は高く評価されている。…
※「超関数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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