超関数(読み)チョウカンスウ

デジタル大辞泉 「超関数」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐かんすう〔テウクワンスウ〕【超関数】

関数概念を拡張した広義の関数。物理学工学分野で便宜的に用いられる有用性のある関数に、数学的な基礎づけを与えたもの。ディラックデルタ関数ヘビサイド階段関数が知られる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「超関数」の意味・わかりやすい解説

超関数
ちょうかんすう

ディラックのデルタ関数は物理学では有効に用いられてきたが、数学的には関数の定義に当てはまらない。そこでシュワルツはこれらを含むように、しかも微分演算やフーリエ解析が自由にできるように関数概念を拡張した。シュワルツはそれをdistributionsと名づけたが、日本では超関数とよんでいる。応用上は多変数の関数を考えることが多いが、一変数の場合にその考え方を紹介しておこう。実変数xの、無限回連続微分可能で、|x|が大きいとき恒等的に0になる関数の集合をで表す。いま、f(x)を連続関数とすると、(x)∈に対し、

上の線形汎関数(はんかんすう)になり、次の意味で連続になる。任意の有限区間Iに対し、Iの外で0になる(x)∈に対し

 一般に、上の線形汎関数T()で、任意の有限区間Iを与えると、定数M、自然数pが決まり、Iの外で0となる任意の関数(x)∈に対し、

となるとき、Tを超関数という。たとえば、
  δ()=(0)
として定義されるδも超関数(ディラックのデルタ関数)である。超関数S、Tが等しい(S=T)とは、任意の(x)∈に対し、S()=T()となることとする。超関数Tの微分は、(x)∈ならば、その導関数′(x)∈を用い、-T(′)をの汎関数と考えると、超関数T′が、
  T′()=-T(′)
として決まる。このT′をTの(超関数としての)導関数という。これが自然な定義であることは、f(x)が微分可能ならば、

部分積分より、ゆえに(Tf)′=Tf'となることよりわかる。

 ヘビサイド関数
  H(x)=0(x<0),
  H(x)=1(x>0)
を超関数と考えて微分すると、

より、(TH)′=δで、これも応用上重要な関係である。超関数Tに微分が定義できるから、超関数の意味で微分方程式を考えることができる。とくに、
  P(D)T=a0(x)T(n)+a1(x)T(n-1)+
   ……+an(x)T=δ
を満足する超関数Tを基本解という。基本解が求まると、任意の右辺に対する解が求まるので、微分方程式では基本解を求めることが問題になる。

[洲之内治男]

超関数のフーリエ変換

フーリエ変換の定義できる自然な関数として、急減少関数(無限回連続微分可能、任意の自然数m、nに対し、|x|→∞のとき、|xm(n)(x)|→0となるもの)がある。その集合をで表すと、となる。(x)∈のフーリエ変換を

で定義する。すると、(ξ)∈となり、逆変換として

が成り立つ。上の連続な線形汎関数として決まる超関数Tを緩やかな超関数という。これにも微分が前と同様に定義できるが、さらに、フーリエ変換を、(x)∈を用いて、
  ()=T()
として決まる緩やかな超関数で定義する。

 デルタ関数δのフーリエ変換は

などがいえる。

[洲之内治男]

偏微分熱方程式への応用例

無限に長い針金の熱伝導は、時刻t、場所xにおける温度をu(t,x)とすると、熱方程式

で与えられる。u(t,x)を、tをパラメーター、xの関数として(超関数として)フーリエ変換をとると、

となるから、

これはξをパラメーターと考えると、tの常微分方程式、よって解は

となる。よって、これのフーリエ逆変換が求まれば、それが求める解である。

[洲之内治男]

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世界大百科事典 第2版 「超関数」の意味・わかりやすい解説

ちょうかんすう【超関数 distribution】

Ωをm次元ユークリッド空間の中の領域とし,m個の負でない整数の組p=(p1,……,pm)に対して|p|=p1+……+pmとする。KをΩの中の任意のコンパクト集合とし,Ω上で無限回微分可能な複素数値関数で,あるKの外では0になるもの全体Kと書き,とする。関数列{φn}⊂Ωが0に近づくとは,{φn}があるKに対するKに含まれ,任意の偏微分演算Dpに対して{Dpφn}がΩ上で一様に0に収束することと定義し,そのときφn→0と書く。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「超関数」の意味・わかりやすい解説

超関数
ちょうかんすう
distribution

部分積分の概念を通して拡張された広義の関数で,無限回微分が可能であってがコンパクトな関数の線形空間において,適当な位相を導入したうえでの連続線形汎関数であると定義される。 S.ソボレフは偏微分方程式の研究において,部分積分の概念を通じて微分概念の拡張をはかって,微分方程式の広義の解を導入した (1913) が,L.シュワルツはさらにその微分概念の拡張に適合するように関数の概念を拡張した (45~50) 。超関数はこのようにして拡張された関数概念で,それについて微分作用素やフーリエ変換などができるので,偏微分方程式論などに都合がよい。 P.ディラックのδ関数の微分の意味づけなどができるようになった。このほかに,佐藤幹夫の hyperfunctionなどの関数とその微分概念の一般化を総称して超関数ということもある。

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世界大百科事典内の超関数の言及

【ゲルファント】より

…モスクワ大学に学び,1943年からモスクワ大学教授。ノルム環の理論の創始者であり,また超関数の理論の創始者の一人でもある。1940年に発表した連続群の表現論に関する研究は高く評価されている。…

※「超関数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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