改訂新版 世界大百科事典 「アシール」の意味・わかりやすい解説
アシール
`Asīr
サウジアラビア南西部の州で,紅海沿いにイエメン方向へアシール山地が走り,その最高峰は標高約2900m。高山型,ステップ型,砂漠型の3種の気候があり,夏の気温は20~32℃と温暖で,夏にのみ300~320mmの降雨に恵まれる。オアシス灌漑農業のほか,この国では唯一の天水灌漑農業が行われ,山の斜面に段々畑がみられる。紅海に面したティハーマ沿岸平地は最も豊かな土地で,自然の港もある。ムロ(イブキ属)の森林が茂り,オリーブ,アイ,イチジク,モツヤクノキが育ち,ヒヒが生息する。自然条件はイエメンに似るが,土煉瓦の4~5階建ての家屋に,赤土や石灰で大胆な色彩装飾をするのも,イエメン風である。3行政区があり,中心は沿岸部がジザーン,高地部がアブハ,東部がカミス・ムシャイトである。ジザーンでは岩塩を産する。第1次大戦までオスマン帝国の支配下にあったが,1920年ワッハーブ派ベドウィン兵が制圧,ワッハーブ派勢力の拡大拠点となった。
執筆者:浅井 信雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報