この語は大別して二つの意味に用いられている。一つは,関東平野,大阪平野,濃尾平野などのように海に面して分布する平地を指し,松本平や甲府盆地などのような内陸に分布する平地(内陸盆地)と対照的に用いる場合である。この場合は,地形的には低地,台地,丘陵を含め,成因的にも河川および海の営力によってできた各種の地形からなりたっている。もう一つは,主として海の営力によって形成された平野で,浅い海底が海面の低下や地盤の隆起運動によって,海面上に現れて陸化した低平な地形を,地形学の分野でとくに海岸平野と呼んでいる。その地表面は平たんで,おもに浅海底の堆積物(粘土や砂礫など)によって構成されている。日本では,房総半島の九十九里浜平野,北海道の湧払平野,秋田平野などが典型的な海岸平野であり,いずれも約6000~1万年前に起こった縄文海進によって一度海底になった土地が,6000年前以降の海退によって陸化して現在みるような平野が形成された。これらの海岸平野には,昔の海岸線付近で形成された浜堤(ひんてい)とよばれる細長い地形的な高まりが現在の海岸線にほぼ平行して多数存在し,6000年前以降の陸化の過程を示している。浜堤の上に砂丘が発達している場合も多い。海が退き,陸地が拡大するにつれて,従来からあった河川はその流れを延長して新しく陸化した地表面を流れる(この河川を延長川extended riverという)。その後,海面の低下や地盤の隆起が継続すれば,延長川によって低地は切りこまれて崖ができ,台地状の地形となる。さらに陸上での浸食がつづけば,表層の海底堆積物の下にある,より古い地層も露出し,地形の起伏も増す。アメリカ合衆国東岸のニューヨーク以南からメキシコ湾岸にかけてのコースタル・プレーンは,現在の海岸から背後の山地までの間は標高300mくらいまでの起伏があり,最大幅800kmにも達する。そこでは河川は全体として平野を横切っており,海側に緩やかに傾く地層が海岸線に平行する地形をつくっているので,〈帯状に区分された海岸平野belted coastal plain〉といわれている。このように,浅海底の堆積面が陸化し,その後に開析され,台地,丘陵を含む起伏ある平野を,広い意味では海岸平野(あるいは開析された海岸平野)と呼んでいる。日本の例でいえば,関東平野東部の常陸台地や下総台地は,約12万年前の〈古東京湾〉の海底が陸化したもので,その後の隆起と陸上浸食の結果,台地となり,台地を刻む谷が発達して,現在みるような開析海岸平野となった。
執筆者:米倉 伸之
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海岸に広がる平野。狭義には、海底の一部が隆起して形成された平野をいう。広義には、海岸砂州や砂丘、その内陸側の潟湖(せきこ)や後背湿地、さらにデルタや扇状地など、海岸地帯に分布する低平な地形全体の総称として用いる。日本の海岸平野は、縄文時代の海進作用によって広く海に覆われたのちに、その後の海退作用によって陸地化した。そのため、海岸平野の地下には、貝殻などの化石を含む砂や泥からなる海成層がみられることが多い。このような海岸平野が隆起したのちに、河川によって多少侵食されたものを開析海岸平野とよぶ。そのうち、ケスタ状になった帯状地形を帯状海岸平野という。
[豊島吉則]
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