岩塩(読み)ガンエン(その他表記)halite

翻訳|halite

デジタル大辞泉 「岩塩」の意味・読み・例文・類語

がん‐えん【岩塩】

塩化ナトリウムからなる鉱物。少量の不純物を含む。立方体の結晶または粒状・塊状で産出し、等軸晶系で、無色または白色。食塩の製造原料として重要。山塩やまじお石塩いしじお

いわ‐しお〔いはしほ〕【岩塩】

がんえん。やましお。

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精選版 日本国語大辞典 「岩塩」の意味・読み・例文・類語

がん‐えん【岩塩】

  1. 〘 名詞 〙 地層から掘り出した塩。等軸晶系に属し、塩化ナトリウムから成る鉱物。多くは塊状または粒状をなし、ガラス状の光沢があり、透明あるいは半透明ドイツポーランドに多い。山塩(さんえん)。〔鉱物字彙(1890)〕

いわ‐しおいはしほ【岩塩】

  1. 〘 名詞 〙 山中から出る天然結晶の塩。がんえん。やましお。〔鉱物字彙(1890)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「岩塩」の意味・わかりやすい解説

岩塩
がんえん
halite

鉱物名として用いる場合と、これを主成分とする鉱床として用いる場合とがある。鉱物としての岩塩は通常細粒結晶の集合体をなし、これが有利に採掘可能であれば岩塩鉱床となる。

[鞠子 正]

鉱床

岩塩鉱床は、海水または流出口のない湖水の蒸発によって、溶解成分が析出沈殿して生成される蒸発岩として産する。蒸発量が降水量を上回るような乾燥気候であれば、蒸発岩が生成される可能性がある。蒸発岩には現在生成中のものと地質時代に生成されたものとがある。前者は大部分が緯度15~30度の亜熱帯地域に分布するが、赤道高地、極砂漠あるいは中央アジアのような大陸地域にも認められる。後者のもっとも古いものは太古代にさかのぼるが、多くは古生代およびそれ以後に生成されている。

 海水または湖水の蒸発によって、最初炭酸カルシウムが沈殿し、硫酸カルシウム、岩塩、カリウム塩、マグネシウム塩の順で続く。岩塩鉱床が生成されるためには、莫大(ばくだい)な量の海水が蒸発する必要がある。たとえば、1000メートルの深さの海が完全に蒸発してできる岩塩層の厚さは、わずか12.9メートルである。岩塩層の厚さは数百メートルに及ぶものもあり、このような厚い岩塩層が生成されるためには、溶解成分を含んだ水の連続的な補給が必要であることがわかる。乾燥気候において、沈殿する鉱物を決定する要因は湿度である。岩塩が沈殿するには湿度が76%以下でなければならず、低緯度の海岸地域の湿度は通常70~80%であるので、岩塩鉱床がよく発達するには、より湿度の低い内陸環境でなければならない。

 地質時代生成の大規模な岩塩鉱床には次の二つの成因モデルが提案されている。

(1)閉鎖海盆モデル 海洋の一部が地殻変動あるいは堆積(たいせき)物の充填(じゅうてん)により海洋と絶縁され、大陸中にカスピ海のような塩湖を生じた場合である。乾燥地帯であれば蒸発量が流入河川水の量を超え、塩湖が濃縮し最終的には岩塩鉱床が生成するというモデルで、水の補給量が比較的少ないので生成される岩塩層は薄くなる。沈殿物の層は下から炭酸カルシウム→硫酸カルシウム→岩塩の順序で重なる。

(2)部分開放海盆モデル 海盆が完全に海洋から絶縁されず、海洋への開口部から海水が連続的に供給されるモデルで、蒸発によって濃縮された塩水は新しく供給される海水の下に沈み、開口部の砂州に妨げられて流出することがない。開口部から海盆の奥に向かって塩濃度が次第に上昇するので、同じ方向に炭酸カルシウム→硫酸カルシウム→岩塩という沈殿物の累帯配列を生ずる。供給水量が多いので閉鎖海盆モデルの場合より厚い岩塩層が形成される。

 地下深くに存在していた岩塩層が上部に堆積した岩石の重力による圧力で、下から上へ絞り出されるように上方の地層を押し上げながら移動貫入し(このような現象をダイアピリズムdiapirismという)、ドーム状の岩塩鉱床を形成することがあり、この岩塩ドームも採掘の対象となっている。岩塩ドームは石油を胚胎(はいたい)する地質構造をつくるので、大きな関心がもたれている。2002年における世界の塩の生産量(大部分が岩塩)は2億2500万トンで、主要生産国はアメリカ4390万トン、中国3500万トン、ドイツ1570万トン、インド1480万トン、カナダ1300万トン、オーストラリア1000万トン。

[鞠子 正]

鉱物

蒸発岩の構成鉱物として産し、しばしば巨大な鉱床を形成する。時代は古生代から新生代完新世(現世)まであり、時代の新しいものほど鉱物組合せ内容は単純化する傾向にある。共存鉱物として普通のものは、カリ岩塩石膏(せっこう)、硬石膏などのほか、カリあるいはマグネシウムの硫酸塩、カーナル石をはじめ可溶性塩類鉱物が多い。また火山昇華物として、あるいは各種熱水鉱脈鉱床を構成する石英などの包有物として産し、含塩素重金属二次鉱物の塩素の起源となることもある。スカンジナビア半島で、古い地質時代における中程度の変成度の変成岩中に微量の存在が確認されているが、その由来や生成機構などは未解明のままである。

 岩塩層は地層の変形に際しては、他の岩石より変形されやすく、ドーム状の形態をとり、ダイアピール構造とよばれる。古い地質時代の岩塩のなかには青色に着色しているものがある。これは、生存するカリ岩塩中のカリの放射能の影響により、ある時間を超えると着色がおこるといわれており、加熱で消滅する。岩塩とカリ岩塩は一見酷似するが味が異なり、ガラスに挟んで圧迫するとカリ岩塩は流動化し、岩塩は粉末化する。岩塩は数少ない食用鉱物の一つである。

 典型的な地層をなす岩塩は日本では産しないが、千葉県館山(たてやま)市那古(なこ)船形付近で、冬の乾燥期に堆積岩の表面に石膏などとともに析出するものは量的にかなり多い。外国ではドイツのシュタッスフルトをはじめ、ポーランドのビエリチカ(ウィーリツカ)の巨大結晶、インド・パンジャーブ州のソートレンジ(岩塩山脈の異名がある)、死海やカスピ海沿岸、北アフリカ、アメリカ西部の塩湖に伴うもの、イタリアのベスビオ火山の昇華物として産するものなどが有名である。

[加藤 昭]


岩塩(データノート)
がんえんでーたのーと

岩塩
 英名    halite
 化学式   NaCl
 少量成分  K
 結晶系   等軸
 硬度    2
 比重    2.17
 色     無,白,褐,青
 光沢    ガラス
 条痕    無
 劈開    三方向に完全
 その他   水に可溶。モース硬度計提案時の硬度2の基準鉱物

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改訂新版 世界大百科事典 「岩塩」の意味・わかりやすい解説

岩塩 (がんえん)
rock salt
halite

天然に産する塩化ナトリウムNaClの結晶性固体。結晶は立方晶系に属し,通常は立方体をなす。Na原子とCl原子とは立体格子の隅に交互に配列しており,このような配列は岩塩型構造と呼ばれている。へき開は{001}に完全で,貝殻状にわれることもある。モース硬度2.5,比重2.1~2.6,屈折率1.544。ガラス光沢を有し,無色,白色のほか微量の鉄化合物の含有により赤,青などの色を呈する。潮解性がある。岩塩は乾燥高温の気候条件下で潟湖や大陸の水盆など蒸発作用の卓越する場所で形成される。セッコウなどの塩類を伴う。中国,インド,パキスタン,ロシア,ドイツ,アメリカなどではしばしば数百mの厚さの岩塩層をなす。日本には産しない。世界の塩の需要の2/3は岩塩によって賄われている。

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百科事典マイペディア 「岩塩」の意味・わかりやすい解説

岩塩【がんえん】

鉱物として産する塩化ナトリウム。不純物として硫酸カルシウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム,硫酸マグネシウムなどが少量混在。通常立方体,塊状または粒状の集合体として産する。等軸晶系。比重2.168,硬度2。無色が普通,ときに黄,赤,青などに着色。内海の海水が蒸発した結果生成されたもので,古生代以降の地層中に岩塩層をなして分布。米国,ドイツ,ロシアに広く産出。地下深所から岩塩が柱状に貫入して地層を突き上げてつくったドーム状地質構造を岩塩ドームといい,石油鉱床を形成することが多い。→(しお)
→関連項目カリ岩塩製塩

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「岩塩」の意味・わかりやすい解説

岩塩
がんえん
halite

NaCl。等軸晶系の鉱物。単位格子中に4分子含む。硬度2,比重 2.16。正六面体,正八面体,柱状などの結晶形をとる。通常は塊状集合体。ガラス光沢を有し,通常は無色透明,ときに淡い黄,赤,紫,青などの色調を帯びる。黄,赤色は鉄化合物など他元素の混入により,青,紫色は結晶中の遊離ナトリウムなどによる。無色の結晶にX線を照射すると青や紫色を呈する。水溶性で,なめれば塩辛い。海水または塩湖の蒸発によって晶出し,大規模な鉱床をつくる。カリ塩 KCl鉱床を伴うことがある。岩塩鉱石中には硫酸カルシウム,塩化カルシウム,硫酸マグネシウム,塩化マグネシウム,硫酸ナトリウム,塩化カリウムなどを含有する。鉱床はときに上部の地層中に貫入し,いわゆる岩塩ドームを形成する。ヨーロッパおよび北アメリカのペルム紀層中に石膏,硬石膏などの蒸発岩と互層して大規模に産する。中国やパキスタンにもかなりの鉱床がある。工業塩,食塩,ソーダ原料などとして利用される。

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化学辞典 第2版 「岩塩」の解説

岩塩
ガンエン
rock salt, halite

塩化ナトリウムの鉱物名.古代海洋が乾こしてできた大洋塩のたい積は世界各地にある.ドイツ中部のシュタッスフルト付近の岩塩鉱床はとくに著名である.この鉱床では19世紀半ばから本格的に開発され,随伴するほかの大洋塩を含む鉱床の成因について,熱力学的に詳細な研究が行われた.

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岩石学辞典 「岩塩」の解説

岩塩

粗粒の結晶質の塩で,岩栓(plug),岩塩ドーム,広大な堆積性の蒸発岩鉱床として産出する[Lyell : 1835].haliteも同義.ハロイダイト(haloidite)[Wadsworth : 1893].

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世界大百科事典(旧版)内の岩塩の言及

【塩化ナトリウム】より

…海水中に平均2.8%存在する。岩塩の形で,ヨーロッパ大陸,アメリカ大陸,中国奥地などに大鉱床を形成して産出する。無水塩は無色で,結晶は立方晶系。…

【塩】より

…血圧の調節はかなり複雑であるため,食塩と高血圧との関係は解明しつくされているわけではないが,減塩食は高血圧症に対して,明らかに有効である。
【資源と製法】
 塩の資源は,地球上いたるところに存在するが,大別すると,岩塩,天然鹹水(かんすい)などの地下資源と海水資源とに分けられる(図1)。現在,利用されている塩は,地下資源によるものが約2/3,海水資源によるものが約1/3である。…

【リューネブルク】より

…人口6万2225(1980)。10世紀以来岩塩の産地として名高く,塩取引によってリューベックと結ばれ,中世を通じてハンザ都市の中で有力な地位にあった。ブラウンシュワイク・リューネブルク太公国に属したが,高い独立性を保持した。…

※「岩塩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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