改訂新版 世界大百科事典 「アポリナリオス」の意味・わかりやすい解説
アポリナリオス
Apollinarios
生没年:310ころ-390ころ
キリスト教著作家。キリスト論に関する異端アポリナリオス主義の主唱者。シリアのラオディケア生れ。アリウス主義論争においてはニカエア派の論客としてアタナシオスとも親交があり,360年ころラオディケア主教となった。ギリシア古典の造詣が深く,ユリアヌス帝がキリスト教徒に古典の教育を禁じたとき,ギリシア古典文学の言葉と形式で聖書の物語を書いた。アレクサンドリア神学の流れをくむアポリナリオスは,キリストにおける人格の統一を重視し,キリストは人間としての肉体と魂を有するが,理性に当たるものは神のロゴスであるとした。すなわち,肉体と魂から成るふつうの人間とは異なり,キリストの人性においてはロゴスのみが動因で,肉体は〈ソロモンの神殿のように〉仮の宮居にすぎず,固有の意志を持たない。したがってキリストは肉体と魂に起因する迷いも誤りもありえない。このような教えをアポリナリオス主義と呼ぶ。これはアリウスの人性重視に対する反動の所産で,キリストの真の人性を否定するものであるから,362年のアレクサンドリア主教会議,381年のコンスタンティノープル公会議などで弾劾され,テオドシウス帝は勅令でこの教えを禁じた。だが,キリストの人性がふつうの人間の人性とはどこか異なるはずだとの考えは根強く,のちの教会史においても類似の異端がしばしば現れた。
執筆者:森安 達也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報