反動
はんどう
reaction
元来は力学上の用語で、動=作用に対する反作用を意味し、それをそのまま社会現象に使うこともあるが(自然的反動)、普通、進歩に対する反作用(政治的反動)を意味する。特殊歴史的範疇(はんちゅう)としての、また一定の政治的党派性を意味することばとしての反動は、フランス革命後において、フランス大革命の理念と原則に反対したフランスの王党派の政策、政治手段、思考様式がその後の反動派の原型となった。フランスの思想家バンジャマン・コンスタンの小著『政治的反動論』Des réactions politiques(1797)は、反動の政治学的分析の初めとされている。
このように政治用語としての反動は、もともと革命に対する反動を意味していたのであるが、マルクス主義は、歴史を、革命を媒介とする非連続的進歩としてとらえることによって、革命に対する反動を、同時に進歩に対する反動としてとらえる用例を開いた。他方、アメリカの政治学者ローウェルは、現状に対する肯定と否定、将来に対する楽観と悲観の二つを軸として、四つの政治的性向を区別したが、これによれば、反動ないし反動派とは、現状に不満をもち、将来についても悲観的で改革の可能性を信じない政治的性向ないし政治勢力であり、現状の評価という点で保守と区別され、将来の予測という点で急進と区別され、自由派とはこの両軸において反対の立場にたつ。つまり、ローウェルは、反動をむしろリベラルの反対概念としてとらえているのである。
わが国では、「保守反動」というような日常的用語例があるが、もともと保守は、保存すべき価値の積極的な選択を前提とするものであるから、本来消極的で反対的なものにとどまる反動とは区別されなければならない。現代における政治的反動の典型は、反革命、反進歩、反自由というあらゆる面でファシズムである。
[田口富久治]
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はん‐どう【反動】
〘名〙
① (━する) 一つの運動または勢力に対抗して反対の動きが生ずること。また、その生じた運動や勢力。ゆりかえし。うちかえし。〔音訓新聞字引(1876)〕
※小説神髄(1885‐86)〈
坪内逍遙〉下「うつくしきをめでたしむは我人間の天性にて、他の醜きをめでたしむは僅に反動
(ハンダウ)なり」
② 歴史の進歩発展に
逆行し、強圧的な手段によって
旧体制の維持または
復活をはかろうとする立場、ないし、政治
行動。また、その立場をとる人。
※一九二八・三・一五(1928)〈小林多喜二〉六「然し時々今日全国的に開かれる反動内閣倒閣演説会が出来なくなった事と」
③ ある物体が作用を及ぼすとき、逆に反作用を受けてその物体自身の運動状態に生じる変化。
※苦の世界(1918‐21)〈宇野浩二〉二「足のさきを頭のうへまで持って来て、反動をつけて、米つき虫のやうにぴょこりと起きあがった」
④ (━する) 反応を起こすこと。
※真理一斑(1884)〈植村正久〉七「眼耳鼻等の神経に感覚を起し之を頭脳に通ぜしめたる時と心性が注思と意志とを以て之に反動するときとの間に少頃の
間隙あるを知る」
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反動
はんどう
進歩的変革ないしそれを支える進歩的勢力に反対し,既存の政治的状態を保守しようとしたり,旧体制の復活をもくろんだりする保守的勢力の行動をいう。反動は保守よりも積極的,行動的な形態である。しかし反革命と比べると,暴力的な色彩は濃厚ではない。反革命が暴力をもって歴史の歯車を逆回転させようとする攻撃的,暴力的な急変を意味するのに対して,反動は予防的な弾圧を含めた歴史的逆行のための行動である。
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反動【はんどう】
歴史の〈進歩〉をくつがえそうとする態度をとるとみなされる人や運動に対する批判的呼称。反動的態度は,現状改革の主張に対する反作用として出現するもので,単なる保守主義とは異なり,伝統的な諸価値や利益を積極的に擁護しようとする。その運動が常に革新運動への政治的対応として規定されることが特徴。現代の反動の典型の一つにファシズムがある。→反革命
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はんどう【反動 reaction】
反動とは,物理学的には作用に対する反作用という意味であるが,政治の世界で反動の概念が生まれたのは,フランス革命をもって嚆矢(こうし)とする。自由・平等・博愛という普遍的価値を前面に出して遂行されたこのイデオロギー革命は,その進展とともに革命に反対する運動を呼び,これが反動派réactionnairesを形成することになった。フランス革命の恐怖政治に対する反動化の真っただなかに生きた小説家,H.B.コンスタンは《政治的反動論Des réactions politiques》(1797)の中で,反動概念の定式化をはかった。
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