反動とは,物理学的には作用に対する反作用という意味であるが,政治の世界で反動の概念が生まれたのは,フランス革命をもって嚆矢(こうし)とする。自由・平等・博愛という普遍的価値を前面に出して遂行されたこのイデオロギー革命は,その進展とともに革命に反対する運動を呼び,これが反動派réactionnairesを形成することになった。フランス革命の恐怖政治に対する反動化の真っただなかに生きた小説家,H.B.コンスタンは《政治的反動論Des réactions politiques》(1797)の中で,反動概念の定式化をはかった。彼は,革命がその当時の国民に広くいきわたっている理念をこえて進行するとき,反動が発生するとし,政治的反動を,(1)人間に対する反動,(2)理念に対する反動,に区別する。そして反動に対する対応策として,前者の暴虐性には政治権力の行使による積極的取締りを,後者に対しては新しい理念と制度の定着を時間をかけてはかるしかないとする。フランス革命後のヨーロッパでは革命と反革命が交錯し,政治的不安定の時期が続くが,そのなかでマルクスとエンゲルスは進歩の概念に対立する概念として反動を定義した。マルクスは歴史を〈革命を媒介とする非連続的な進歩〉としてとらえ,革命に反対する反動こそ進歩への反動であると説く。こうして進歩と反動とが対極的概念として提示され,そこには保守主義の入り込む余地すらないほどの慢性的緊張関係が形成される。ところで丸山真男は,運動としての反動を,(1)上からの,つまり権力内部からの反動,(2)下からの,階級脱落者(デクラッセ)たちの反動,に二分する。(1)はたとえばクーデタとして発現し,(2)は大衆を動員した暴動,内乱という形をとる。現代の反動の一つの典型はファシズムであり,この現代の独裁は自由や平等という理念に対する反動のみならず,社会主義革命に対する予防的反革命としての役割も担ったのである。
ちなみに,反革命という概念は,フランス革命の過程で1789年にまず登場し,反動という概念は少し遅れてテルミドール以降の95年にあらわれる。そして保守という概念はさらに遅れて19世紀に入ってから確立された。すなわち反革命や反動が対抗概念として生まれたのに対し,保守という概念は,守旧することに積極的意味を見いだしたところに確立されたものである。現代の政治の世界では,反動は敵を非難する際に用いられる論争的な概念と化しており,〈保守反動〉という言葉で一括されてしまう傾向がある。しかしイギリスの保守主義者が述べたように,保守には〈守るために変革する〉側面があり,革命の対抗概念としての反動とは区別されるべきである。一方,ファシズムの洗礼を受けた第2次大戦後も,アメリカのマッカーシイズムにみられるように反動の試みはやむことがない。
→反革命 →保守主義
執筆者:舛添 要一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
元来は力学上の用語で、動=作用に対する反作用を意味し、それをそのまま社会現象に使うこともあるが(自然的反動)、普通、進歩に対する反作用(政治的反動)を意味する。特殊歴史的範疇(はんちゅう)としての、また一定の政治的党派性を意味することばとしての反動は、フランス革命後において、フランス大革命の理念と原則に反対したフランスの王党派の政策、政治手段、思考様式がその後の反動派の原型となった。フランスの思想家バンジャマン・コンスタンの小著『政治的反動論』Des réactions politiques(1797)は、反動の政治学的分析の初めとされている。
このように政治用語としての反動は、もともと革命に対する反動を意味していたのであるが、マルクス主義は、歴史を、革命を媒介とする非連続的進歩としてとらえることによって、革命に対する反動を、同時に進歩に対する反動としてとらえる用例を開いた。他方、アメリカの政治学者ローウェルは、現状に対する肯定と否定、将来に対する楽観と悲観の二つを軸として、四つの政治的性向を区別したが、これによれば、反動ないし反動派とは、現状に不満をもち、将来についても悲観的で改革の可能性を信じない政治的性向ないし政治勢力であり、現状の評価という点で保守と区別され、将来の予測という点で急進と区別され、自由派とはこの両軸において反対の立場にたつ。つまり、ローウェルは、反動をむしろリベラルの反対概念としてとらえているのである。
わが国では、「保守反動」というような日常的用語例があるが、もともと保守は、保存すべき価値の積極的な選択を前提とするものであるから、本来消極的で反対的なものにとどまる反動とは区別されなければならない。現代における政治的反動の典型は、反革命、反進歩、反自由というあらゆる面でファシズムである。
[田口富久治]
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