ロゴス(読み)ろごす(英語表記)logos ギリシア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロゴス」の意味・わかりやすい解説

ロゴス
ろごす
logos ギリシア語

古代ギリシア哲学の基本語の一つ。〔1〕事物の存在を限定する普遍の理法、〔2〕行為の従うべき準則、〔3〕この理法、準則を認識し、これに聞き従う分別理性を意味する。パトスに対する。本来は古典ギリシア語で「いう」を意味する動詞legeinの名詞形であって、「いわれたこと」を意味する。そこから、「ロゴス」は多種の派生的意義を生み、古代哲学において重要な役割を果たすものとなった。古代哲学は総じて「ロゴス的」と特徴づけられよう。

「いわれたこと」は、まず、〔1〕「ことば」「文」「話」「演説」である。言論を重んずるのは古代人の特徴であり、ここから修辞学rhētorikēが生まれた。〔2〕ついで、それは事物の「説明」「理由」「根拠」であり、したがって、事物の「定義」「論証」でもある。ギリシア人はこの意味でのロゴスの追究によって、論証科学episteme(ギリシア語)、scientia(ラテン語)と哲学philosophia(ギリシア語)を生んだ。〔3〕さらに、それは定義によって把握される事物の「本質存在」(その「何であるか」)であり、したがって、それは事物の「成り立ち(physis〈ギリシア語〉自然、本性)」を規定し、それぞれの事物をそれぞれに固有な一定のものとしている「形(eidos〈ギリシア語〉forma〈ラテン語〉本質構造)」である。だが、事物が一定のものとして限定されるのは、それが他の事物から区別されることによって、他の事物との関係のうちに置かれることによってであるから、ロゴスはこの関係を律するものとして、ある事物と他の事物との「割合」であり、したがって、すべての事物に「共有のものkoinon」である。ヘラクレイトスはここから、世界万物は一つのロゴスによって統(す)べられ、このロゴスを認識することのうちに知恵があるとした。〔4〕さらに、ロゴスは、ことばを語り、事物の存在の「何であるか」を把握する人間の「分別」「理性」を意味する。ロゴスにより把握される事物の存在は感覚には顕(あら)わではないことにより、パルメニデスは、ロゴスと感覚の区別を強調した。

 古代哲学のロゴス性はこれらの人々によって端緒を置かれた。人間はことばを語るものとして、「ロゴスをもつ動物(理性的動物)」と定義される。古代末期プロティノスでは、根源の一者はロゴスを超えるものである(神秘主義)。キリスト教思想においては、ロゴスは世界創造における神の思想内容であり、第二の位格である「子」である。これらすべての思想は後世のヨーロッパ哲学に気息の長い、種々の影響を及ぼした。

[加藤信朗]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロゴス」の意味・わかりやすい解説

ロゴス
logos

理性,言語,理法(法則),比例,定義などさまざまに訳されるギリシア語で,古代哲学,神学における重要な概念。ヘラクレイトスはロゴスを万物の生成を支配する永遠の理法とし,ストア派は世界を合目的的に支配する原理として神と同一視した。なおストア派は個物を形成する能動的理性を種子的ロゴス(ロゴス・スペルマチコス),分かたれて個々の人間に内在する思想 ratioとしてのロゴスをロゴス・エンディアテトス,ことばとして表出された oratioとしてのロゴスをロゴス・プロフォリコスと呼んだ。ユダヤ神学とギリシア哲学の融合を試みたアレクサンドリアのフィロンは,ロゴスを神と同一視せず,神と世界とを仲介し世界形成に関与する神的存在とした。これは『ヨハネによる福音書』における神のひとり子イエス・キリストとして受肉したロゴスと近似しており,直接の依存関係はないがキリスト教神学に与えた影響は大きい。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android