改訂新版 世界大百科事典 「あゆひ抄」の意味・わかりやすい解説
あゆひ抄 (あゆいしょう)
文法書。5巻6冊。富士谷成章著。1773年(安永2)成稿,78年刊(活版本として松尾捨治郎の校注本,国語学大系本がある)。成章は,いっさいの単語を名(体言),装(よそい)(用言),挿頭(かざし)(副詞・接頭語の類),脚結(あゆい)(助詞・助動詞・接尾語の類)の4種に分類したが,本書は,《挿頭抄》(1767),《装抄》(伝わらない)に対して,脚結を5種50類にわけ,その一々の語について,接続,意味用法,時代的変化,証歌を注したもの。語と証歌には口語訳がそえてある。総論は著者の文法論を要約したもので,品詞の完全分類の試み,言語の変遷の認識と時代区分,装図(よそいのかたがき)と称する組織的な用言活用表の提示など,整然たる体系をうちたてている点で,本文編の実証的なすぐれた見解とともに,江戸時代の文法書中最も独創的な空前の業績とされる。同時代の本居宣長との間には影響関係は認められないが,宣長門の鈴木朖(あきら)は大きな影響をうけたと思われる。今日における国文法学は本書の下流に立つものといってよい。
執筆者:林 大
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報