江戸時代末の国学者、歌人。漢学には咸章(かんしょう)、層城(そうじょう)とも号し、国学、和歌には北辺(きたのべ)とも。医師皆川成慶(みながわなりよし)の次男として生まれ、富士谷家の籍を継ぐ。京都在住。柳河(やながわ)藩立花侯に仕える。実兄である漢学者皆川淇園(きえん)から学問上大きな影響を受ける。和歌詠作の必要上もあって古歌のことばを研究し、『かざし抄』『あゆひ抄』などの書を著す。「名」「よそひ(装)」「かざし(挿頭)」「あゆひ(脚結)」の語の4分類は、日本において現存する最古の体系的な品詞分類との評価を受け、山田孝雄(やまだよしお)の文法をはじめ、明治以降の国語学に与えた影響も大きい。「装図(よそいのかた)」として独自な用言の活用研究を行い、「六運(りくうん)」として日本語の時代区分を行うなど、優れた成果を残している。長男の御杖(みつえ)が『俳諧天爾波(はいかいてには)抄』を著すなど学問を継承するが、同時代の本居宣長(もとおりのりなが)と比較すると継承者の面で恵まれていない。安永(あんえい)8年10月2日没。
[山口明穂 2018年10月19日]
『竹岡正夫編著『富士谷成章全集』上下(1961、1962・風間書房)』▽『竹岡正夫著『富士谷成章の学説についての研究』(1971・風間書房)』
江戸中期の国学者。号は層城,北辺など。京都の人で,東福門院御殿医皆川春洞の次男。儒学者皆川淇園(きえん)の弟。筑後柳河藩の京都留守居役富士谷氏の養子となり,国学を学んで,とくに言語の研究において優れていた。長男は富士谷御杖(みつえ)。おもな著作には《挿頭抄(かざししよう)》《あゆひ抄》など。彼独特の日本語の品詞分類に基づいた詳しい実証的なものであって,日本語の歴史の時代区分,活用,助詞,助動詞の研究においては,現代にもなおその学説の影響が及び,評価が高い。ただその説が術語や理論がやや難解であったことと,比較的に早世したため同時代人には理解されず,久しく著作は稿本のまま埋もれていたが,明治以後,次第にその価値を正しく認識されるに至り,本居宣長およびその一門の言語研究とならんで,西洋言語学の影響を受ける前の国語学の中核をなすものとして,高く評価されている。
執筆者:山田 俊雄
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…それは,古代の日本語の特質を明らかにし,その本質に迫ろうという精神である。ついに,本居宣長と富士谷成章とは,それぞれ独立に,画期的な労作を発表したのである。宣長は,多くの実例の調査にもとづいて,係結(かかりむすび)の法則を帰納し,まず,これを1枚の図表で,《てにをは紐鏡(ひもかがみ)》にまとめて,公にした。…
…これらは主として意味上の区別であるが,〈ことば〉や〈用の言〉について,語形変化の性質が意識されていなかったとはいえない。江戸時代に初めて秩序だった分類を示したのは富士谷成章(ふじたになりあきら)で,〈名,挿頭(かざし),装(よそい),脚結(あゆい)〉の4種とし,すべての語をその中に収めようとした。〈脚結〉(《《あゆひ抄》》の項も参照)は助辞,〈装〉は用言,〈挿頭〉は修飾格に立つ諸種の語や接続詞,感動詞,事物代名詞などを含み,〈挿頭〉が最も雑多であるが,主用語である体言,用言のほかに,それらに対する副用語の一類を立てた点は重要である。…
※「富士谷成章」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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