アンゲロプロス(読み)あんげろぷろす(英語表記)Theo Angelopoulos

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンゲロプロス」の意味・わかりやすい解説

アンゲロプロス
あんげろぷろす
Theo Angelopoulos
(1935―2012)

ギリシアの映画監督。アテネ生まれ。アテネ大学卒業後、フランスの高等映画学院に学んだが中退。帰国して日刊紙で映画欄を担当し、1968年に短編『放送』で監督としてデビュー。同年の『再現』を経て、圧制と抵抗、政変陰謀の渦巻くギリシア現代史3部作『1936年の日々』(1972)、『旅芸人記録』(1975)、『狩人(かりゅうど)』(1977)を発表。エピソードの時間的配列の大胆な処理、できごとを中断せずに追っていくロングテイクなどを駆使して独自のスタイルを築き上げた。『アレクサンダー大王』(1980)、『シテール島への船出』(1984)の後、『霧の中の風景』(1988)、『こうのとり、たちずさんで』(1991)、『ユリシーズの瞳(ひとみ)』(1995)では、ソビエト連邦崩壊を背景に激変するバルカン半島情勢を鋭く意識し、『永遠と一日』(1998)では一転して回顧的な色彩をにじませた。その後企画した作品の構想がしだいに膨らみ、『エレニの旅』(2004)が、その第1部として発表された。第2部『第三の翼』(2009)に続き、第3部『もう一つの海』にとりかかるが、アテネ郊外で撮影中にバイクにはねられ死亡した。不可思議なイメージを核に、政治的、精神的な要素が緊密に絡み合う寓意的な世界をつくりあげた。

[出口丈人]

資料 監督作品一覧(日本公開作)

1936年の日々 Meres tou '36(1972)
旅芸人の記録 O Thiassos(1975)
狩人 Oi kynigoi(1977)
アレクサンダー大王 O Megalexandros(1980)
シテール島への船出 Taxidi sta Kythira(1984)
蜂の旅人 O melissokomos(1986)
霧の中の風景 Topio stin omichli(1988)
こうのとり、たちずさんで To meteoro vima tou pelargou(1991)
ユリシーズの瞳 To vlemma tou Odyssea(1995)
キング・オブ・フィルム 巨匠たちの60秒 Lumière et compagnie(1995)
永遠と一日 Mia aioniotita kai mia mera(1998)
エレニの旅 Trilogia: To livadi pou dakryzei(2004)
それぞれのシネマ~「3分間」 Chacun son cinema - Trois Minutes(2007)
第三の翼(仮題) Trilogia II: I skoni tou hronou(2008)

『W・ルグレ著、奥村賢訳『アンゲロプロス――沈黙のパルチザン』(1996・フィルムアート社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アンゲロプロス」の意味・わかりやすい解説

アンゲロプロス
Angelopoulos, Theo

[生]1935.4.27. アテネ
[没]2012.1.24. ピレエフス
ギリシアの映画監督。フルネーム Theodoros Angelopoulos。アテネ大学卒業後,パリの映画学校で学び,1970年にデビュー。1975年神話を下敷きにして独裁政権下のギリシアの悲劇を暗示した『旅芸人の記録』O thiasosを発表,世界的に知られた。その後,『アレクサンダー大王』O Megalexandros(1980,ベネチア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞),『シテール島への船出』Taxidi Sta Kithira(1983),『霧の中の風景』Topio stin omichli(1988,ベネチア国際映画祭サン・マルコ銀獅子賞),『こうのとり,たちずさんで』To Meteoro Vima Tou Pelargou(1991),『ユリシーズの瞳』To vlemma tou Odyssea(1995,カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ),『永遠と一日』Mia aioniotita kai mia mera(1998,カンヌ国際映画祭パルムドール)などを発表。寓話と風景描写によって歴史の悲劇をとらえる演出方法は独自の魅力をもっていた。

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