アンダーソン転移(読み)アンダーソンてんい(その他表記)Anderson transition

改訂新版 世界大百科事典 「アンダーソン転移」の意味・わかりやすい解説

アンダーソン転移 (アンダーソンてんい)
Anderson transition

半導体中にある種の不純物原子が存在すると,電子はこれを回る軌道にとらえられ,水素原子の場合に似た孤立したエネルギー準位を形成する。このような不純物が適当な密度で散在すると,隣り合う不純物原子間の距離が軌道の直径に比べ何倍か大きくても,量子力学的トンネル効果によって,電子は一つの不純物からその隣へとび移ることができる。これは数学的には,二つの軌道の間の一種相互作用エネルギーによるものとして表される。この相互作用は不純物原子間の距離が遠くなると急速に弱くなる。一方,現実の半導体では各種の原因(とくに他の不純物原子による静電的効果)により,軌道のエネルギーは不純物ごとに無秩序に変化している。この軌道エネルギーの平均的ばらつきと相互作用エネルギーの平均値との比に依存して,電子の状態(そして運動)が大きくかつ急激に変化する可能性が1958年にアンダーソンP.W.Andersonによって指摘された。この現象がアンダーソン転移である。相互作用が強くて上記の比が小さいとき,電子の波動関数は十分大きく広がっており,電子は半導体中を不純物伝いにかなり自由に運動でき,電気伝導率も高くなる。他方この比がある値より大きくなると,波動関数は小さく局在化し(アンダーソン局在),熱エネルギーの助けをかりぬ限り電子は移動できなくなり,伝導率は,とくに低温で非常に小さい。このことはアモルファス物質など一般の乱れた体系内での電子の運動に関しても,乱れの激しさに対する電子の移動をひき起こそうとする相互作用の強さの大小関係に依存して,同じように成り立つと考えられており,この種の物質での諸現象を解釈するうえでの一つの指導原理となっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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