中東のシリアやイラクを拠点とするイスラム過激派組織。自ら国家樹立を宣言して「Islamic State(イスラム国):IS」と称しているが、国際社会は国家と認めていない。自ら信じるイスラム理想社会を実現するために、戦闘、殺人、テロ、誘拐などをいとわない武装組織で、イスラム法に基づく反欧米国家を目ざしている。一時、シリアからイラクにまたがる地域を実効支配したが、アメリカ軍などの攻撃で支配地域を喪失した。おもな資金源は、収奪した原油の密輸、身代金目的の誘拐、支持者からの寄付などである。日本人を含め、敵対する国の人を殺害し、その映像をインターネット上に流すなどの残虐行為を繰り返す一方、ソーシャルメディアを駆使して情報発信を行い、世界中からイスラム過激思想に染まる若者を勧誘し、中東、アフリカ、東南アジアなど世界各地でテロ行為を行っている。
イラク戦争後に結成されたアルカイダ系スンニー派武装勢力「イラクのアルカイダ」を母体とするが、アルカイダに「破門」された経緯がある。2004年以降、他組織などとの合流を経て勢力を広げ、2011年からの内戦で権力の空白状態が生じたシリアで急速に勢力を拡大した。たびたび組織名を変更しており、2014年には一方的に国家樹立を宣言、イスラミック・ステートと改称した。2015年11月のパリ同時多発テロでは犯行声明を出した。2017年末までに、アメリカ軍とロシア軍などの掃討作戦で壊滅状態に陥ったが、その後も、イラクやシリアでゲリラ戦を展開しているほか、世界各地でイスラミック・ステートに影響を受けた過激派がテロを起こしている。最高指導者でイラク出身のアブ・バクル・アル・バグダディAbu Bakr al-Baghdadi(1971―2019)や、アブ・イブラヒム・ハシミ・クラシAbu Ibrahim al-Hashimi al-Qurashi(1976―2022)が、アメリカ軍の軍事作戦で相次いで死亡し、勢力は弱まっている。
なお、イスラミック・ステートの直訳はイスラム国であるが、国家であるとの印象を避けるため、日本の報道機関は「イスラム過激派イスラム国」と注釈をつけたり、「イスラミック・ステート=IS」とよんだりしている。またISIL(アイスル/アイシル)(Islamic State in Iraq and the Levant、「イラクと地中海東岸レバント地域のイスラム国」の意)、ISIS(アイシス)(Islamic State in Iraq and Syria、「イラクとシリアのイスラム国」、もしくはIslamic State in Iraq and al-Sham、「イラクとシャームのイスラム国」の意)とよぶほか、アメリカ軍はISのアラビア語名の略称である「Daesh(ダーイッシュ)」とよんでいる。
[矢野 武 2022年8月18日]
(2015-2-20)
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