誘拐(読み)ユウカイ(英語表記)kidnapping

翻訳|kidnapping

デジタル大辞泉 「誘拐」の意味・読み・例文・類語

ゆう‐かい〔イウ‐〕【誘拐】

[名](スル)だまして、人を連れ去ること。かどわかし。「幼児誘拐する」「営利誘拐」→略取誘拐罪
[類語]人さらい連れ去る略取拉致らちかどわかす

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精選版 日本国語大辞典 「誘拐」の意味・読み・例文・類語

ゆう‐かいイウ‥【誘拐】

  1. 〘 名詞 〙 巧みに人を誘い出し、連れ去ること。かどわかすこと。
    1. [初出の実例]「十二歳に満ざる幼者を略取し又は誘拐して」(出典:刑法(明治一三年)(1880)三四一条)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「誘拐」の意味・わかりやすい解説

誘拐
ゆうかい
kidnapping
abduction

人をその意思に反して、従来の生活環境から自己または第三者の支配下に移すこと。古くから誘拐にまつわる話は多い。ギリシア神話にはハデスに娘を誘拐されたケレスの物語があるし、日本では森鴎外(もりおうがい)の作品ともなった山荘太夫(さんしょうだゆう)(山椒大夫)中の幼い姉弟の人さらい伝説がある。これらは、事実としての誘拐がどのような社会にもあったことを示すものといえよう。

 外国で、史上最高額といわれている身代金(みのしろきん)は、16世紀にスペイン人の征服者ピサロがインカ王アタワルパの身代に要求したもので、部屋いっぱいの人の手が届く高さの金銀であった。20世紀においては、1975年にアルゼンチンの左翼ゲリラ組織が世界的穀物会社の経営者ボルン兄弟を誘拐し、約180億円をゆすり取った。被誘拐者でもっとも年少者は1955年アメリカ、テキサス州の病院から誘拐されたキャロン・ワートンで、生後わずか29分のことであった。イタリアでは1970年代から1980年代にかけて、年平均50件の誘拐が続発したが、その背後には「誘拐産業」といわれるほどの犯罪組織の結社も発生した。

 日本におけるおもな誘拐事件としては、昭和時代では、東京の吉展(よしのぶ)ちゃん幼児誘拐殺人事件(1963)、名古屋女子大生誘拐殺人事件(1980)、兵庫県西宮(にしのみや)市の江崎グリコ社長誘拐事件(1984)などがあり、平成に入ってからは、父親が子を殺害した群馬県保険金目当て誘拐偽装殺人事件(1990)、親の財産をだまし取ろうとした栃木県狂言誘拐事件(1994)、渋谷女子大生誘拐事件(2006)などが起きた。特異な例では、1990年11月に誘拐され2000年まで9年間犯人の家に監禁されたという新潟県少女誘拐監禁事件がある。警察庁によると、第二次世界大戦後に起きた身代金目的誘拐事件は、2006年(平成18年)6月時点で288件である。誘拐の検挙率は約95%と、他の犯罪に比べて著しく高い。被害者は概して子供と女性が多く、とりわけ子供は約6割を占めている。犯人は単独犯が多く、二人以上のものは2割未満である。しかし、欧米型では、政治性を帯びたゲリラや職業的な誘拐グループなど組織性の高いものがある。2003年のイラク戦争勃発後、中東でのゲリラによる外国人の誘拐事件が頻発し、日本人も数回被害を受けた。なお、日本のケースでは、加害者と被害者の面識関係はあるものとないものとほぼ半々である。誘拐の方法には、通園、通学、帰宅などの路上や、遊園地などでだましたり、甘言で誘う誘惑型や、自動車などに強引に連れ込む襲撃型などがある。動機は怨恨(えんこん)、復讐(ふくしゅう)、愛憎などのほか、近来は利欲による営利誘拐が多い。無力な子供、女性を対象とすると、犯行がわりに容易なので、大金が入る幻想に取り憑(つ)かれやすい。しかし現金入手は至難で、日本でこれまで身代金を手にした例はわずか3%、しかもそのほとんどが逮捕されている。

 なお、内外問わず、特異な現象としては、誘拐犯と被害者が、拘束期間が長引くにつれて仲良くなるストックホルム・シンドロームというものがある。

岩井弘融

『M・ブレス、R・ロウ著、新庄哲夫訳『キッドナップ・ビジネス』(1987・新潮社)』『中郡英男著『誘拐捜査――吉展ちゃん事件』(2008・創美社、集英社発売)』『本田靖春著『誘拐』(ちくま文庫)』

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デジタル大辞泉プラス 「誘拐」の解説

誘拐〔映画〕

1997年公開の日本映画。監督:大河原孝夫、脚本:森下直、撮影:木村大作。出演:渡哲也、永瀬正敏、酒井美紀、柄本明、新克利、石濱朗、西沢利明ほか。第52回毎日映画コンクール日本映画優秀賞、撮影賞受賞。

誘拐〔小説:ロバート・B・パーカー〕

米国の作家ロバート・B・パーカーのハードボイルド小説(1974)。原題《God Save the Child》。「スペンサー」シリーズ。

誘拐〔小説:池波正太郎〕

池波正太郎の長編時代小説。1990年刊行。「鬼平犯科帳」シリーズの最終巻。

誘拐〔小説:高木彬光〕

高木彬光の長編推理小説。1961年刊行。弁護士・百谷泉一郎シリーズ。

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普及版 字通 「誘拐」の読み・字形・画数・意味

【誘拐】ゆうかい

かどわかす。

字通「誘」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の誘拐の言及

【人質】より

…日本の現行法では,人を人質にとる行為は禁じられ,逮捕監禁罪,ときには誘拐罪でも処罰しうる。しかし,これらにおいては人質の目的である各種の不法な要求の強要に処罰の主眼が置かれていないばかりでなく,実際上は人質の生命の危険にも質的差異のあるのが一般である。…

※「誘拐」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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